さよなら親友またきっと、「マルファス」
馴染みのある声に、僕は手に持っていた紙を反射的に伏せた。
伏せてしまった。それがサインだ。
おまえには見せたくない・知られたくない・言いたくない。
会いたくはない。
王都・クヴァール広場の路地を奥へ奥へと入り込んだ一角にある酒場。お世辞にも治安がいいとは言い難い店。それも開店前だ。
強面の店主が予定のない侵入者に――僕の親友にじろりと視線を送る。
「何しに来たんだ、サム。学生が来るような所じゃないぞ?」
「それはマルファスも同じだろ」
「僕は連れを待ってる。おまえは何の用なんだ?」
「用ってわけじゃないけど……」
サムはふてくされたような顔になった。子供の頃みたいだ。
「友達の顔を見かけたら、声くらいかけるだろ。君のことを嗅ぎまわってるわけじゃない」
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