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    weedspine

    気ままな落書き集積所。

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    weedspine

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    渡英前 大学の廊下にて。

    にしむく サムライ本日最後の講義が終わり、廊下へ出ると鮮やかな夕映えが一帯を染め上げていた。
    その色の濃さに、すっかり深まった秋を感じる。
    窓から差し込む光の強さに目を細めていると、後ろから名を呼ばれた。
    振りむけば、夕焼けよりも赤いハチマキをたなびかせた男が立っている。

    「今日の講義は終わったのか?」

    「うん」

    「どうした、ぼーっとして。腹が空いたのか」

    「ひどいな。確かにお腹は減ってるけど……」

    苦笑しながら、再び窓を見る。正確には、窓の向こうの西日を。

    「お前はもうじき、この夕焼けの方、西の果てに行くんだなあと思ってさ」

    「西の果てとは……地学の講義も受けた方がいいぞ」

    「だって、かの国の人たちは日本を極東の地って呼ぶじゃないか」

    「それもそうだな。天王寺の西門の先は極楽の東門か」

    二人、黙って窓の向こうに沈み行く太陽を眺める。
    彼の表情は朱い光に溶けて見えない。

    「昔の人は、西の果てに天竺を思ったが俺はそのもっと先へ行く。
     行って、やらねばならぬことがある」

    同じ時を同じ学び舎で過ごす身ではあるけれど、彼と自分では何か覚悟が違う。
    使命などとは縁遠い自分を、どうして傍に置いているのだろうか。

    「すごいよな、お前は。さっきの講義で教授が嘆いていたよ。
     近頃の若者は船に忍び込んででも外を見ようという気概がないってさ」

    「貴様もくればいい」

    「無理だよ。それこそ、ボクも“気概がない若者”だからね」

    「……残念だ」

    冗談だと笑う声を待っていた耳に届いたのは、本当に残念そうな深いため息だった。

    「行こう。だらだらしてる間に飯屋が混む」

    赤いハチマキをひるがえし、廊下を先にずんずん進んでいく。
    振り返ることはなく、こちらが後ろを着いてくることを疑いもしない。
    彼と出会ってからの時間は、そこまで長くないはずだ。
    それなのに、すっかりこれが当たり前になってしまっている。
    こんな日々が間もなく終わるなんて、どうして信じられるだろう。

    沈みかけた日の光はすっかり弱くなり、進む先までは照らしてくれない。
    その姿が闇にかき消える前にと、慌てて背を追った。

    -完-
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