その熱は冷めず ノックの返事も聞かずに扉を開け、進み入る先はこの執務室の主の前。
執務卓の書類やファイルの山の向こうから大きなため息がひとつ。
「何用だ、レストレード“警部”」
「さすが、耳が早いね」
「これ見よがしに辞令を机に置いていった者がいるからな」
親切な人もいるもんだね、ととぼけながらジーナ・レストレードは机の端に腰かける。
彼の言う通り、今日から警部となった。
学のない路地裏育ちの女が警部となるには、相応の時間がかかった。
読み書きの基本から根気よく教えてくれたアイリス、
遠い異国の地から活躍を応援してくれた成歩堂やスサト、
何かと気にかけ、どうやら見えないところでフォローしてくれたらしいホームズ、
そして、目の前にいるこのバンジークスにもずいぶん世話になった。
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