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    ふうすい

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    ふうすい

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    2011年7月作の小説を少し修正したもの。

    ##サガ

    【腐向け/ジュピボラ】憶えなき彼--------------------
    ■憶えなき彼

    「ボラージュ、髪に何かついている」
    「え、何処に?」

     確か一緒に食事をしている時だった。
     ふと埃のような物が私の視界に入った。

    「ここか?」
    「違うもっと左」
    「…んー…?」
    「もう少し耳の近く」

     口伝えで場所を示すが埒が明かない。仕方なく私は手を伸ばした。

     埃自体はすぐ取れた。
     だがその際、髪が少々乱れてしまったので、手櫛で軽く撫でてやる。
     やや癖があるが素直な毛質で、指通りがサラサラと気持ち良かった。

    「取れたぞ」

     一連の所作の間大人しくしていた彼に声を掛ける。

    「………」

     が、返事が無い。

    「ん?」

     顔に目を向けると、何だかぼうっとしていた。
     私をぼんやり眺めている。

    「どうした」
    「……いや、何でもない」

     声を掛けると気まずそうに目を逸らして、自分の頬に手の甲を当てる仕草をした。
     顔が火照った時などによくするだろうあれだ。

    「何だ、どうかしたのかボラージュ?」
    「……暑くて」

     暑い? 室温は普通で特に高くはない。
     少し心配になる。

    「熱でもあるのか?」
    「…分からない。そうかも知れない……」

     返事も明瞭でなく、口調にも力が無い。

    「いかんな。ちょっと額を貸せ」
    「えっ?」

     やけに驚いた顔をして固まるボラージュ。
     手を伸ばすと、跳び退くように距離を置かれた。
     まず簡単に、手で熱を計ろうと思っただけなのだが……。
     そう説明しても、一向に警戒を解いてもらえず

    「別にいいよ……。自分で計るから」

     の一点張りである。
     むう……。

    「体温計の方が良かったか?
    なら、私の部屋に一つ有るから貸そう。後で来てくれ」
    「……ジュピターの、へや……?
    いやそれは、遠慮する……!
    うん、何か熱も気のせいだったようだ! 俺はこの後の仕事があるのでこれで!」
    「おい、ちょっとボラージュ――」

     それこそ止める暇も無く……
     いっぺんにまくし立てて、食事もそこそこに退散してしまった。

     ――やはり熱があって、食欲も無かったのでは……。
     随分心配したが、その後特に体調を崩した様子も無く、私は胸をなで下ろす事となる。



     ……ボラージュの様子が何となくおかしい気がしてきたのは、やはりあれが最初だったように思う……。
     最近は、あの時のようにあからさまに呆ける事は無くなったものの、たまに妙、と言うか。
     今のように、物憂げな気色で思案に耽っている様が増えたような……。


    「……何か悩み事か?」
    「ん……? 別に、何でもないよ」
    「嘘つけ。何か悩んでいるだろう」
    「……」
    「最近目立つぞ」

     誤魔化しきれないと悟ったのか、ややあって、彼は諦めの溜め息をついた。

    「……実は、……
    今、とある奴に、相談を受けていて…」
    「相談?どのような?」
    「……恋愛の、だ」

     言い辛そうに、ぼそりと呟いた。

    「ほう……お前に色恋の相談を持ちかけるとは、見る目が無いと言うか、同情する」
    「そうだよ……俺は経験も無いし興味も無い。常識論しか答えられないのに。
    ……大方、他に相談できる奴が居なかったんだろうな……」

     しかし、分かる気がする。
     ボラージュは普段笑顔で人当たりが良く、慕う者も多い。
     加えて冷静な判断力もあるし、大体の問いには理論的な思考で、即座に答えを出してくれるだろう。相談相手として人気があるのも頷ける。
     だが世の中には、理論で片づかない問題が多く有る。彼はそこに弱いのだ。

    「お前は容姿もそれなりに整っているし、経験豊富そうに見えるのだろうな」
    「こういう場合はいい迷惑だが、褒め言葉として受け取っておくよ。
    ……それでな」

     私が先を促すまでもなく、彼は相談の中身を話し始めた。
     何でも『片想いのひとが居るのだが、想いを告げて良いのか悩んでいる』という事らしい。

    「ジュピターの方が経験有るだろ。どう思う?」
    「愚問だな。悩む余地も無いと思うが」
    「……」
    「相談事というのは、相談を持ち掛けた時点で、既にどうしたいか決まっているものだ。特に色事はな。
    要は背中を押して欲しいだけなのだろう。
    ……と言うか、この辺りはお前も知っているだろうと思っていたが……」
    「……あ、でも……」

     私の返答に対して、ボラージュは何か言いたそうにするのだが、躊躇って、視線を落として、また上げてという動作を繰り返す。

    「まだ何か言いたそうだな……。
    気になる事が有るのか? 口外はしないぞ?」
    「……。『背を押して欲しいだけ』か。
    確かにそうだろうさ。俺だって分かるよ。
    告白しろって言うのは簡単だよな。
    報われない恋だと分かっていても……」
    「報われない……? どういう事だ」
    「相手が妻子持ちなんだよ……」

     今度は私が言葉を失う番だった。

     ――妻子持ち…だと……。

     不倫、浮気、略奪愛、家庭崩壊などという単語が一瞬にして脳内を飛び交う。
     というかそこは最初に言っておくべき所ではないのか。ちょっと話の順序がおかしいぞボラージュ。

    「妻子持ち…かぁ……
    それは……難しいなぁ……」
    「だろう……? 諦めるべきだって、そいつも何度も自問自答したらしい。
    だけどそれで治まるようなら相談したりはしないよな」
    「ふむ……
    相手の妻子は、家庭の雰囲気とかは……」
    「ああ、至って円満だよ。不貞などしそうもない」

     それで、断られると分かっている…か……。

    「黙っていれば、そいつと相手は仲の良い友人として付き合って居られる。
    だが想いを告げれば、その関係も壊してしまうだろうな。
    ジュピター、お前なら何て言う?」

     ――そう言われた所で…。

    「私はやはり、想いを伝えるべきだと思う」
    「ふぅん……。無責任だな……」

     落胆したような様子を見せるボラージュに、私は言葉を重ねる。

    「諦めようとしても諦めきれないならば、隠し通す事などできないだろう。
    今のままを望むなら、気持ちがそこから動けずに、妻子に対しての嫉妬を重ねていく事になりかねん」
    「それは……だけど……
    告白して……フられて来いって……
    それで今の関係も諦めろって言うのか……」
    「想いを告げた後でも友情は育めるはずだ。
    前へ進む為には、一度キッパリけじめをつけた方が良い事もある。
    どうせ現状のままでは居られない。もう動き出していると言っても良い。
    今の状態が永遠に続くような思いこみは、誰もが抱く錯覚だ」
    「……ご立派な高説だけどさ……。
    他人事だからだろう。そんな事が言えるのは」

     ボラージュは妙につっかかってくる。

    「納得できないか」
    「……これ以上続けても堂々巡りになりそうだから、もう、言ってしまうけどな。
    ――相手はお前なんだよ。ジュピター」

     ……何…だと……?

    「わ、私か……!?
    ……一体、何でまた、どうして……?」
    「知るかよ……俺が知りたいよ……」

     絞り出すように言って頭を抱えるボラージュ。
     私も頭を抱えたい気分だった。

     特別容姿が優れているとか、人格者であるという自覚は無い。
     妻子があっても尚結ばれたいと思われるほど魅力的とは、到底思わない。
     都市の中では私はわりと有名な方なので、噂に尾鰭がついて、とか、イメージが美化されたという事だろうか?
     しかしボラージュはさっき、仲の良い友人だと……。

    「その、なぁボラージュ?
    相談者というのは、私の見知った女性なのか? 心当たりがあまり無いのだが……」
    「さぁ……。……向こうはよく知った風だったが」

     そういう言い方をされると、ますます特定が難しくなる。
     ……もしやネメシスとか……いや彼女にはディオールが居るだろう……。
     他に革命軍の女性……殆ど言葉を交わした事の無い者まで含めなければいけないのだろうか……。いやそもそも、軍の者であるともボラージュは言っていない。
     一体……誰が……。

     ボラージュは懊悩する私を真剣な面持ちで見つめていたが、
     その彼が突然に、

     フ、と笑った。

     驚いて顔を上げる私に対して、
     さっきまでの雰囲気と一転、不敵な笑みを浮かべて

    「心当たりが無いとは、酷い奴だ。
    だが安心しろよ。思い当たらないのも当然だ。
    俺はまだ重要な事を言っていないからな」
    「何……?」

     ……この上何を告げようと言うのか。
     予想がつかない話の流れに、思わず緊張が走る。

    「いいか?最後の要点だ。
    ――相談者は男だよ」
    「おと……!?」

     今度こそ、
     私は頭の中が真っ白になってしまった――。

    「まさか、その、お、おとおとおと…」
    「いや、弟じゃなくて」
    「分かっててボケてるだろう!?
    そうではなくて、……男だと……?」

     何という事だ……。
     私はようやく、ボラージュがあれほど悩んでいた訳を、理解した気がした。

    「俺の言った『想いを告げれば関係を壊す』という言葉の意味が解ったか?
    男が男に恋するなんて、繁殖の観点から言えば異常だし、お前のようにノーマルな人間から見たら変態もいい所だ」
    「確かに、私にそういう経験は無いが……
    好意を向けてくれる相手に、変態は失礼ではないか……」

     反論しながら何とか頭を整理する。
     私と距離の近い、仲の良い友人で。
     男……というと。
     最初に浮かぶのは……

    「……まさか……
    ……
    ……ボラージュ?」

     最近様子がおかしかったし、もしかして…。
     考えてみればそもそも、ボラージュがいかに相談役に適しているからと言って、この時代に来てまだ日の浅い彼に、そこまで深い悩みを打ち明ける者が居るのか?
     しかし彼はひきつった顔で、肩を竦めて見せた。

    「な、何で俺なんだよ……」
    「あ……やはり違うか。すまない……。
    まあ、そうだよな」
    「……」

     安堵の息を漏らすと、何だかムッとした表情をされたような気がしたが、相談の中身に頭を切り替える。
     ……まさかディオールとか……いや彼にはネメシスが居るだろう……。
     ……。
     ……。
     相談者の詮索も、徒労に終わりそうなので止める事にした。

    「ええと、その彼は、私とどうしたいのだ? どうなりたいのか?
    好意にも、色々あるだろう……」
    「……俺も気になったんだがね。本人も明確には分からないと言っていた。
    ……うーん……キスはしたい、とは、言っていた……かな?」
    「そ、そうか……」

     革命軍の屈強な戦士達の姿を思い浮かべて、かなり複雑な気分になった。

    「あと……触って欲しい……とか、したいと言うかキスして欲しい、だったな。うん」
    「して欲しい側なのか…………」

     いよいよ想像が困難な域になってきた……。

    「ああ。他にも……
    ずっとそばに居たい、とか……。
    二人だけの時間を増やしたいだの……
    いっそ隔離してお前を独占したい、みたいな事も言っていたかも……」
    「……だんだん願望が恐ろしくなってこないか……」

     彼は、とにかく、と話題を仕切り直す。

    「話を聴くとさ……友情の延長だとか、
    憧れを恋愛感情と混同している訳ではなさそうなんだよ」
    「……そのようだな」
    「最初はね、会話が楽しかっただけなんだと」

     溜め息混じりに、彼は語気に哀愁を滲ませた。

    「なのに……
    その内、声を聞くだけで心臓が跳ねるようになって……。
    指が触れただけで、体が熱くなってしまう始末で……。
    本人も随分悩んだようだが……どう考えても恋だろう、という結論に至った……。
    らしい」

     話し方に若干の違和感があったものの、私はつい、口を挟むタイミングを逸してしまった。

    「……相談者は……自分がそういう性愛者なのではないかと考えた。
    かと言って、男性に興味がある訳ではないんだ。何しろ初恋だから。他に人を愛した事も無い。
    “この人”以外とは、恐らく一生恋をできないだろうと言った。お前の居ない人生は考えられないと。
    もし、告白して――断られたら…拒絶されたら……
    ……どうなってしまうんだろうな? 想像がつかないよ……」

     ……驚いたことに……
     ボラージュは、相談者に随分と肩入れしているようだった。
     彼が他人の悩みで、ここまで感情移入するなどというのは、今までなら在り得ない事だ。
     ――彼も、変わってきた……のだろうか……。

    「驚いたな。お前がそこまで他人の悩みに入れ込むとは」
    「……俺にとっても、他人事じゃないからな。
    相手がお前だから」
    「いや、いつもなら『一遍抱いてやれば?』なんて軽口を叩きそうなものだったのでな」
    「……」

     私はいつもの調子を努めて、明るく言ったつもりだったが、すぐに失言だったと気づく。
     ボラージュの突き刺さるような視線が私を睨んだ。
     空気が険悪になってきた…。

    「す、すまない。茶化して良い事ではなかったな」
    「……」
    「…あの、ボラージュ……?」
    「……お前にもう少しヒントをやりたいところだが、生憎、もうやれるヒントが無いんだよ……」

     睨みながら低い声で言われると、自分が本当に悪いことをしてしまった気になる。実際責めているのだろうが。
     というか怖いボラージュ。

    「どうもすまなかった。相談の話に、真面目に取り組もう……!」

     しばらく睨んでいた彼だったが、私が素直に謝ると、目を逸らして威圧を和らげてくれた。

    「……で、要点は大体話したぞ。
    お前はどう返答する?
    告白すべきか。しないべきか」
    「私は……
    やはり、告白すべきだと思う」
    「お前は残酷だ……」

     そう苦々しい顔をされても、私の意見は変わらない。

    「私は妻と誰かを見比べて、どちらか選択するなどという事はしない。
    優劣を決めて伴侶を変えるような人間なら、この先も新しい伴侶をまた捨てるかも知れない。
    男だから断るという訳ではなく、それ以前の問題なのだ。
    妻と別れる気も無いし、他の者と付き合うつもりも無い、とキッパリ言おう」
    「……じゃあ、告白しない方がいいじゃないかよ……。
    告白させて、わざわざ傷つける事は無いだろ……」
    「それでも、伝えずにはいられなくて苦しんでいるのが相談者なのだろう?
    いいぞ。私は拒絶しない。言葉をありのまま受け止めよう。
    その上で丁重に断って……できれば、より親しい友人になりたい」
    「だから、友人じゃ我慢できないと言ってるのに……」
    「せっかく好意を抱いてくれているのだ。その想いまで、私は否定したくない」
    「……お前って奴は……何という……」

     私の答えを聞いたボラージュは、肩を落として首を振った。
     せっかく相談の内容を打ち明けてくれたのに、失望させる結果になっただろうか。

    「……でも、まぁお前なら、そう言うよな……。
    別に期待してた訳じゃ無いんだ……。
    俺だって、どんな決着が最良かなんて分からないから……」

     沈んだ調子で呟くと、しばし沈黙が降りた。

     けれど長続きはしなかった。
     唐突に彼は背筋を伸ばして明るい声を出す。

    「しっかし、ジュピターも無慈悲だよなぁ。
    誰であろうと容赦が無い。
    もし俺が相談者でも、ものの数秒でフられてしまうんだろうな」
    「いや……
    ボラージュなら、
    少し考える」

    「――え?」

     瞬間、空気が凍ったような緊迫感が辺りを包んだ。

    「そ、それって、どういう……?」
    「ん?」

     やけに真剣に詰め寄ってくるので、私は少々気圧されてしまう。

    「いや、うむ……
    ……伴侶や恋人としては、考えられないが……
    それでも何とか、お前がなるべく笑顔で居られるように、道を探すと思う……」
    「……どうして?」
    「どうしてって……
    そうだな――」

     頭に浮かんだ台詞が余りにクサすぎて、笑みがこぼれる。
     ……まぁこの場は良かろう。

    「――友情だけじゃない。
    幸せになって欲しいだけではなく、
    “私が”“お前を”幸せにしたいという、エゴを持ってるから――かな?」

    「…へ……」

     私の告白に……
     ボラージュは面食らってしまったようで、すっかり放心したような表情をしていた。

    「未来からたった一人で来たお前と、一番多くの時間を過ごしたのは、恐らく私だ。
    もしそういう事態になってしまったら……責任を取らなくてはな」

    「そ――
    そうだよなぁ……」

     何がそんなに嬉しかったのか。
     彼は花が咲いたような笑顔を見せた。

    「そうだよなぁ。
    責任、取ってもらわないとなぁ」

     同じ言葉を反芻して、一人うんうんと頷く。

     さっきまでの沈痛な面持ちは何処へやら……。
     満開の笑顔は次第に、平時ではけして見せない緩みきった表情に変わっていった。

     そんな友人の様子に、私は何というか……気恥ずかしさを覚える。
     先ほど自分が、彼にどれだけキザな台詞を言ってしまったのか、自覚してきたからだ。

    「……なにデレデレ笑ってるんだ、ばか」

     言って額を軽く小突くと、しかしボラージュはますます嬉しそうに、無防備な笑顔を深めるのだった。

     まったく現金な奴だ。
     先ほどの相談者……私は憶えが無い彼の件は、もう良いのだろうか?
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