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    あきの

    紅鉄しかない

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    あきの

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    兄弟役でドラマに出るくろてとの素人作文

    次の撮影まで時間があるので、食事と休憩にしてください。
    そう言われた俺と鉄は、二人揃ってケータリングの並んだ机を眺めていた。
    鉄はひとりひとつどうぞ、と書かれたドーナツの箱から目が離せないでいる。
    プレーンであろう砂糖のみのもの、チョコレート、イチゴ、クリーム入り、とカラフルなドーナツが並んでいて、鉄の視線はチョコとイチゴを行き来しているようだった。

    ふと視線を感じて横を見ると、広報スタッフが笑顔でこちらにスマホを向けていた。
    カメラ目線にすると、少しの間のあと、スタッフからぐ、と親指を立てられる。撮ってくれたようだ。
    そのまま何事もなかったかのようにケータリングからお茶のボトル2本と、弁当を手にとる。
    鉄の皿にはチョコドーナツが乗っていたが、視線はまだイチゴのドーナツに向いていた。そんなに食いたいのか。

    「大将、どれにするッスか」
    「イチゴのやつ、半分食っていいぞ」

    鉄はその言葉にパッと顔を上げて、俺の顔を見た。びっくりしたみたいに眉が上がって、ほっぺが少し赤くなる。

    「いらねえか」
    そうじゃないと分かっていながら聞いてみると、鉄はぶんぶんと首を横に振った。

    「嬉しいッス!ありがとうございます!」

    ぴかぴかの笑顔でそう言うと、といそいそとイチゴのドーナツを皿に取って、「俺、チョコとイチゴで迷ってたんスよ」と言う。大将はエスパーなんスかね、と真面目な顔をして言うのがおかしかった。
    頭を撫でてやりたかったが、カメラもあるし、俺の手も弁当とボトルで塞がっている。けれどそれこそ寝る時まで、撫でてやるチャンスはいくらでもあるからよしとした。

    「見てりゃわかる」
    「え!マジッスかぁ!?」

    そんなに顔に出るッスかね、とぶつぶつ言う鉄に「戻るぞ」と声をかけて、少し後ろで相変わらず向けられている広報スタッフのカメラにペットボトルを持った方の手をあげて通り過ぎた。

    「押忍!…うわっ!えっ!?え!?撮ってたんスか!?いつから!?」

    振り返った鉄はようやくカメラの存在に気付いて、大声をあげた。視線をやると、スタッフに皿のドーナツを指差されている。

    「ちがうッス、ひとつは大将のドーナツッス!俺がふたつ食べるわけじゃないッスよ!…半分は、もらうッスけど!」

    スタッフも見てたのだから分かっていて言っているだろうに、必死で言い訳する鉄が可愛くて思わず声に出して笑うと、「もう、笑うなんてひどいッス!」と怒ったふりをした鉄が追いついてきた。
    スタッフに会釈をしてから楽屋に向かう。
    ドーナツを落とさないようにか、少し真剣な顔で歩いている。

    楽屋に戻ると、鉄はいそいそとテーブルにドーナツを置いた。
    その後ろからそっと顔を寄せると、それに気付いた鉄が顔をあげて、ぽっと頬を赤くしてすぐまた視線を落とす。

    「大将のそれ、外ではやめてほしいッス…」
    「……? どれだよ」

    顔近付けるなってことか?なんて考えていたら、下を向いたままの鉄が小さな声で告げた言葉に驚いた。

    「その、……俺のこと、可愛くて仕方ないみたいな……顔で、見てくるのッス……」

    そんなに顔に出てたか?
    愛想がなくて、怒ってるみたいに見える、普通にしてても喧嘩を売られる。それが自分の、生まれながらの顔だと思っていた。
    けど、その俺がもし無自覚でそんな顔してるんだとしたら。

    「そりゃ、無理だろ……」
    「なんでッスか〜!自意識過剰かもしれないッスけど!大将にそんなふうに見られるの、照れるし、恥ずかしいし、……外じゃ、ちゅーとか、できないッスから……」

    最後は消え入るような声でもごもごと呟いた鉄の視線は、まだ下を向いている。
    横から下顎を撫でると、ぴくりと反応した鉄の額、前髪のうえから軽くキスをした。

    「家に帰ったら、続きな」

    鉄は大袈裟なくらいびくりと震えて、それでも必死で頷く。
    俺はきっとまた『鉄が可愛くて仕方ない』顔をしてるんだろうが、もうこの楽屋にはふたりしかいないのだからと開き直るしかなかった。

    次の撮影時間までに、きちんと「仲の良い兄弟」に見えるように戻らないといけねぇな。
    そう思いながらもう若干眼を蕩けさせた鉄の頭を、少し大袈裟にわしわしと撫でてやった。
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