ぬしと話、か。
イヤ何、われも何をどう言えば良いのかサッパリ解らぬのだが。まあ良い、徒然とではあるが、聞くというなら、話してやろ。
ぬしとする話など一つしかないがな、三成のことよな。
イヤ、あれはなんと言うか。ヒトの突然変異か異形か、と見紛うほど、驚愕するほど、まこと、三成はウツクシイ。
それは徳川、ぬしも知っての通りであろ。
太閤と沈黙の賢人の、二人の夢、ユメの話はどうだ? ああ、知っているなら話は早い。
竹中殿は時間を恐れていた。時間、と云うはげに残酷なモノであるよ。時に駆り立てられておらぬ者には些細に過ぎぬがな。そう、彼の二人を分かったのは時間であった。
われには……そうさなァ、太閤の心など想像にも及ばぬが。見ての通りの矮小の身上に過ぎぬゆえな。事実太閤は歩みを止めなんだ、アア、ぬしもそれは見ておったのであったな。
が、あくまデモ印象に過ぎぬが。竹中殿を失った太閤はむしろ一層駆り立てられるようでもあったよな。聞こえぬ声を聞くように。
そうよ徳川。見ておったのであろ、よほどアレが、三成の方が分かり易く心を痛めておったわ。
ぬしが太閤を倒したはそんな頃合いであったな。…ならば知らぬだろうが。
「私の命はお二人のご教授の賜物、お二人のお心だけが私を生かす」
「そうだな、刑部」
「お二人が誤っていたはずはない、もしも家康が正しいなら、奴の嘯くことだけが正しいというなら、私は、」
「そんな世界は認めない」
なあ徳川。
太閤の覇道が誤りだと言うならば、ぬしは三成の命も、存在も、嘘だと言うのか。
太閤と沈黙の賢人のユメ、約束を、現在に繋ぎ止めようと言うのか今の三成よ。少なくともそれだけがアレが正しいと言える道筋であろ。
あれ以来に、太閤を、竹中を呼ぶ声を、ぬしは聞いたか。あれは涙を流しはせぬ。代わりに怒りはするがな。怒りしか知らぬ。
哀れよな、あれほど美しい男が怒りしか、知らぬ。