やあ、お前か。いつか見たような笑顔で男が振り向く。毛利は息を溜めて、小さく顎を引いた。
夢の中は曇天であった。夜ではないにしろぐらりとよどんだ薄暗さの中にあって、穏やかな眼差しは正確にこちらを捉えている。
その目にいつにない嫌悪感に近い畏れのようなものを誘われて、もちろん毛利はそれを否定した。己がおそれるべきはこれではないのだ。
「……何時にも増して、酷い顔をしている」
なので、溜めていた息と一緒くたに感想を吐き出した。見慣れた光景の中に佇む男は苦笑いをして腕を組み直した。
「そうか? ワシとしては悪くはないと思っているんだが」
その言葉にはおそらく、偽りはない。そうなのだろう、と元就は唇を釣り上げた。酷い顔だ。
「欲に塗れた顔ぞ」
神の格を捨てて人であることを望んだ男を、毛利は感慨なく見据える。若者そのものの眉がまいったなあというように下がるので、我の知ったことではないが、と付け加えた。
「共に生きる、とは、難儀よな」
この空は永久の金環食である。他ならぬこの男がそれを選んだがために。
「そうか? いや、そうだな。だが、それが、ワシはとても嬉しい。」
「……」
毛利は目を眇めて、それから逸らした。
「貴様が人に成り下がるならば好都合というものよ」
海が近いのだろう、波の音を聞いた。まぶたの裏に船が見える。異海の空に映えて、風を切って進む船。あれは形見か、片身か。
最早毛利は真に、ただ一人になることを恐れない。
「ハハッ。そうかもしれないな?」
見れば天上にて、日の輪は月に喰われたまま、輪郭を白々と光らせている。