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    黄月ナイチ

    @71_jky

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    黄月ナイチ

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    タカ不二(2003年頃)

    なまめかしい白色の、つやつやとした花びら(正確にはそうでないらしいけれど)の上を細かなしずくが伝っていく。通学路に立ち止まってその様子を眺めていた不二に、河村は気配の隙間にするりと入り込むように声をかけた。
    不二は笑顔で振り返った。作ったのではなく、そうなるだけだった。めずらしく。
    雨は柔らかく、湿気だけを振りまくように降り、あたりを包んでいる。霧雨。
    「おはよう」
    大きな傘のひさしに隠されながら、不二は言った。河村は見上げるほど大きく、体の厚みはとても同年代とは思えないほどに逞しい。自分もいずれはこのようになるだろうかと思ってみて、骨格の違いとやらに苦笑する。
    「おはよう。」
    不二を持っていた傘の下に入れ、河村は応えた。不二の頭は自分の鼻先くらいで、制服に包まれた肩は意識するたびに意外なほどに細く薄い。
    「傘、持ってないの?」
    街角の紫陽花はぼんやりと白い。不二はそれに目を奪われていたらしかった。細かな雫が甘茶色の髪の上できらきらと光っている。
    「……傘、嫌いで。」
    口ごもるようにして答える。それにこのくらいなら大したことないし。制服の上にも雫が張り付いている。
    河村は苦笑した。
    「それならいいんだけど」
    けれど河村は傘を戻しはしなかった。それに併せてか、不二も傘からは出ようとしなかった。
    「…あじさい、見てたの?」
    「うん。」
    代わりに不二は河村を促した。余計にした時間を取り戻すように学校へ向かう道を指して、ごく自然に河村の視線を紫陽花からもぎ離した。
    「うん、きれいだったからね。」
    肩を並べて歩き出しながら、不二が笑ってとりとめのない理由を口にして、河村はそうだね、と同意を示した。
    「そうだね、そういえばなんとなく不二に似てる」
    「え?」
    「あ、……うわ、なんか俺変なこと言ったよね」
    ごめん。河村は慌てて謝って、淡い雫の張り付いた不二の頬から足元へと目を逸らした。白い肌に雫が伝い、すべり落ちていくのを見ていた。静かな、柔らかな。
    「そうかな」
    不二は小さく、取り消された言葉に言葉を続けた。疑問符。そして傘の陰の下から河村を見上げた。
    なまめいた白い花びらと雨。
    「ごめん」
    疑問符に何か不穏なものを感じたのか、河村がもう一度謝った。
    「謝らなくて良いよ」
    不二はひそやかに笑った。花に喩えられるとは思わなかった、と冗談めかして、河村の持つ傘の陰から。
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