星の光は届かない[試し読み]※推敲前の未定稿なので決定稿ではやや変更が入る可能性があります※
蝶のはばたきがひと月の後に嵐となるのなら、人ひとりの歩みが幾星霜を経て世界を滅ぼすこともあるかもしれない。
もちろん千年、万年、或いは永劫とも思えるほど長い目で見た場合の話である。たかだか百年生きるかどうかの生き物にそれほどまでに長期的な視野を持てというのはどだい無理な話だ。いちいち今踏み出そうとしている一歩が回り回って世界を滅ぼすかもしれない、などと危ぶんでいては恐ろしくてとても歩けたものではない。
エルピスにやって来てからというもの、冒険者は常にそういった緊張感に苛まれていた。溢す言葉のひとつ、踏み出した足の一歩が何を引き起こすとも知れない。考えるよりも動くが早い、どころか事あるごとに思考を置き去りにして飛び出していくいきものにはあまりに酷なことだった。
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