お助け妖精は電子に棲む〈2〉〘機械オンチ〙
「あ、ごめん今日約束があった」
妹の夏代はそういうとパタパタと支度を始めた。
「え?ログインの操作教えてくれるって言ってたじゃない」
「だから約束思い出したの!操作は帰ってからでもいいでしょ、行ってきまーす!」
「ちょ、つよ?!待っ…」
無常に閉まる玄関の扉の前、でわたしは呆然としていた。
(どうしよう…一人じゃ解らない…)
わたしの名前は伊予和。気海伊予和。きうみ、いより。
流行に疎く鈍臭く覚えが悪い、特に機械関係は全くダメな女子高生。
そんなわたしを皆は『ヨワ』と呼ぶ…気海をキカイと呼び、キカイヨワと。
妹は夏代、彼女はわたしと正反対のお洒落で流行にも敏感、そして何より機械に強い。だから『ツヨ』と呼ばれている。
今日は大好きなソシャゲで、何故かトラブルが発生してログイン出来なくなったわたしを助けてくれる約束だった。でも…
彼女が帰るまで待たなきゃならない。大好きなゲームの、夏のイベント…楽しみにしてた推しの活躍。新しいストーリーに装備。予告からずっとワクワクしてたのに…
わたしは泣きそうだった。というより涙ぐみながら部屋に戻り、推しグッズが並ぶ机を眺め、深い深いため息をついた。
どうしてこんなに機械に弱いの…いつも自分では上手く行かない、いつもつよに頼ってばかり。でもわたしがあまりに覚えが悪くて、つよは呆れがちだった。
「そろそろ自分でやりなよ」
昨日、つよにそう言われてしまった。
「わかった…でも今回は助けて」
「はぁ、じゃ明日ね、明日でいい?」
「うん、明日…ありがとうね!」
昨日の夜の会話を頭で繰り返しながら私はまたため息をつく。
ピロン♫とスマホが鳴り、メッセージが入った。つよからだ…
「晩御飯とカラオケの予定立った。今日は無理。明日は映画に行くから、教えるのその後になる」
え?今日…無理?明日…もダメってこと?じゃあイベントは…
「それか何とか自分でやってみてくれる?それでダメだったら手伝うよ」
自分で……
キャラが頷いているスタンプを返して、わたしはスマホを机に置いた。
後は想像通りよ。やってみたの、自分で。でもーーー
“パスワードが不正です"
”もう一度操作をやり直してください“
どうしても入れない。涙が出てきて、スマホを持つ手が震えてきた。
どうして、わたしはこんなに不器用なんだろう…どうして!
「誰か、居てくれないかな…傍に居て教えて欲しい…妖精でもいいから、わたしを助けてよ!」
思わず叫んでいた。