きっと仕方の無いことなのだ。
彼の隣に立てる歩数は決まっていて、
彼と視線を合わせる回数は有限で、
彼と言葉を交わす期間は限定的で、
彼と肌を重ねる頻度は制限されていて、
彼から奪えた時間はワタシにとって刹那でしかないことなど。
今、彼といるはずの時間をどれだけ無駄にしたのだろう。
今、彼と一緒にいればどれだけ時間を奪えるだろう。
そんな“彼の全てを拘束することで得られる時間”を母数とした計算など、ただ虚しくなるだけなのに。
わかっている。
ありもしない……してはいけない時間に想い馳せるよりも、彼が向けてくれた時間を大事にすべきなのはわかっているのだ。
それなのに、どうしても交えた筈の時間があったことが、己のどこかに降り積り、じりじりとワタシを焦し続ける。
ワタシのよく知らない誰かと共に歩き、
ワタシと交わりづらい視線を誰かと交わし、
ワタシに向ける声色で誰かと楽しく話し、
ワタシが求めるその手を誰かに重ねても。
どんなに嫉妬に狂っても。
ワタシを必要としない限り、貴方はどこにでも行ってしまう。
だってそうでしょう?
例え貴方から笑みを奪い全てを拘束しても、
例え貴方を蝕む病を取り払ってしまっても、
貴方はいつか死ぬのだから。
だからワタシはこの決まりきった時間の中で、
この身を焦がす不安を抑え込み、ひた隠し、押し殺して、
どこへも行けてしまう彼がこちらを向くのを待つしかない。
そう、
この扉を開けてくれますようにと、
また会えますようにと願うほかないのだ。
ジエンドのお話は
「きっと仕方の無いことなのだ」で始まり「また会えますようにと願うほかないのだ」で終わります。
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