吸血鬼さんと狼男くんのお話 続き二人の身長より遥かに高く塗装が所々剥がれ落ちた重厚な扉が、鈍い音を立てて開かれる。開けたのは勿論、この屋敷の主。
彼は背後に控える少年の方へ振り返ることなく先へと進み、少年もそのまま後を着いていった。
開けっぱなしの扉を閉めずに行ってしまった吸血鬼の少年達。不用心かと思うのだが、どうやら魔法を掛けているらしい。それは一体何なのか?答えは数十秒程経った後、わかるものだった。
なんと開けたままのソレが勝手に動き閉まったのである!
……だが二人にとっては普通の光景なため、特に気にすることはなかった。
「ねールックー」
「何」
「ぼくまだ夜ご飯食べてないんだ」
「あっそ」
「何だよぉ!『あっそ』って!冷た過ぎるだろ!」
「君を甘やかすと碌でもないことになるからね」
「ひ、ひどい!!友達になんてこと言うんだよ!!」
「ウザ」
目的の部屋まで後少しと言ったところで、少年からルックへ声が掛かる。どうせ腹が減ったとかそんな処だろ、と踏んでいたルックの読みは見事なまでに的中。
仲が良いのか悪いのか何とも判断しづらい問答を一通り繰り広げられたのち、少年の口からとある言葉が零れ落ちた。
「テッド〜!!アイツ酷い奴だよ〜!!」
それはルックにとっては爆弾と同じくらいの威力を誇るもので。
テッド、という名が耳に入った途端、腹の底から苛立ちが湧き上がり全身を蝕んでいく感覚に襲われたらしい。自分を嫌っていて、また自分も嫌いなもの。
初対面で互いに敵と判断したソイツの侵入を許してしまった可能性が浮上したことに、テッドという名の者だけでなく自分自身に対しても怒りが湧き上がる。
踵を返し彼は少年の元へ歩みを進める。いつもの無表情ではなく、ほんの少し怒りを表した顔のルック。対して少年の表情は変わらず能天気なままであった。
「……何処に隠してる?」
鋭い眼光が少年へと向けられる。
さぁ、答えは?
「テッド?隠してないよ?ってか着いてきてないけど」
あっけらかんと返された返答。少年の性格を鑑みてストレートな言葉の裏に嘘が潜んでいるとは思えない。が、ルックはすぐには信じることはなく。
瞼を閉じ神経を集中させ足元に陣を展開、魔力を駆使して周囲の気配を探り始めた。
寒さと暑さ、どちらにも片寄らず平均と言える温度だった廊下が冷えから肌寒いへと変貌を見せる。
少し寒さを感じたのか、少年は右手で反対側の腕を摩り始めた。
「……」
「……」
暖を取りつつ頭上に『?』をいくつも浮かべ、目の前の吸血鬼が何をしているのかさっぱりわからないという、わっかりやすい表情を見せる少年。
高位の存在であるが魔法<力に寄り気味の基本脳筋の彼には、仕方がないことなのかもしれない。
「君の言う通りだね」
「そう言ってるじゃん!」
「君に気付かれずに潜んでいる可能性が無いとは言えないし」
「何でそんなにテッドのこと目の敵にしてん
の……」
敵視している者がいないことを確認したと同時に陣を解く。
瞬間、廊下を支配していた寒さが鳴りを潜め少しずつ元の温度へと戻っていった。
「馬鹿なことに時間使ってしまったよ」
「ルックのせいじゃん」
「君が余計なことを言ったからだよ」
「ぼくのせい!?」
「うん」
「違うだろ!」
きっとテッドと呼ばれた者がこの場にいれば「つーかもうちょいで部屋に着くんだしバカやってねーで早よ行けや」と突っ込んでいただろう。多分。
「……そう言えば君、まだ何も食べてないんだろ?」
またも口喧嘩漫才を繰り広げていた二人だったが、吸血鬼の方は段々と面倒になってきたらしい。
「!」
少年よりも頭の回転が早いルックが主導権を握った瞬間だった。
「確か冷蔵庫に食べ物……」
「行こうルック!!早く!!」
掌で転がされていると全く気付いていない少年は『食べ物』というワードを耳にした途端、目を輝かせ今日一の笑顔を見せる。ちなみに、空腹というブーストが掛かっているからなのかは不明である。
その上キラキラと輝き始め、薄暗い廊下を自身の光(?)で明るく照らし始めるといったよくわからない状態になってしまった少年。そんな彼を見てチョロいなコイツと鼻で笑うルック。
「ぼくのご飯が待ってるんだ!!」
「わかったから落ち着きなよ」
少年が切望する目的の部屋まで、もう少し。
今度こそ何かしらのイベント(?)を起こすことなく進むことは、果たして出来るのだろうか。
続く…?