対峙の時、来る 続き不埒な者に制裁を与え放り出したのち、私は急いでゴリアテ様の看病に移った。
影響を与える立場にいながらも、坊っちゃんに対する感情はあの頃のままだったとは。このセザール、不覚にございます坊っちゃん。
しかし坊っちゃんの貞操はしっかりとお守りすることは出来たことは、不幸中の幸いと言えますでしょう。
氷水に布を浸し、しっかりと絞ったのち額へとそっとお掛けする。火照りを取るために何度も何度も同じ動作を繰り返す。
あぁ。もしも心の傷になっていたとしたらーーーー。
負の感情が膨れ上がった、その時だった。
「……ハッ!」
「坊っちゃん!お目覚めですか!」
「え、あ、私は……」
どうやらご自身の状況を飲み込めていないご様子。フラッシュバックをしないように、私は慎重に言葉を選び表へと出す。
「将軍閣下は既にお屋敷から追い……お帰りになりました」
思わず本音が漏れそうになりましたが、間一髪のところで変換することが出来ました。
「そうですか……」
「はい」
坊っちゃんの言葉に動揺は見られない。ふむ……。
ゆっくりと身体を起こすゴリアテ様は額から落ちた布を手に取り、まじまじと見つめ始める。
「……グレイグが私の側に来たことは覚えているんですけど」
布を受け取ろうと手を差し出したと同時に、坊っちゃんが私に向かって言葉を放った。これは、まさか。
「?」
「その後、何をしたのか覚えていなくて……」
「……」
なんたる幸運か!かの男の愚行が記憶から消えているとは!
「な、何か恥ずかしいことだったような感じが残っているけど」
……完全に消えているわけではないようです。ですが、内容は覚えていない……。
ならば私のやることは一つ。
「まさか!将軍閣下がそのようなことをなさるはずがございません!」
坊っちゃんの脳内から追い出すこと、でございます。何をですって?それはもちろんグレイグ……様の愚の極みと言える行いをに決まっているではありませんか!
「あ、う、うん」
「悪魔の子討伐に熱が入り過ぎてしまい、坊っちゃんにその熱が移ってしまったのでしょう!」
間違ってはおりません。悪魔の子に関することの話をしていたことは、私だけではなく騎士や使用人達にも伝わっている事実でございますが故。
「確かに悪魔の子に対して苛立ちが凄かったような……」
「外に控えていた私にも聞こえました。間違いないと思われます」
間違っておりません。悪魔の子に対する怨念とも取れる言葉を放っていましたが故。
「そっか……」
「はい」
「悪魔の子……」
坊っちゃんの中で『恥ずかしいこと』の感じとやらは薄れているご様子。
その証拠に……話の焦点が将軍閣下から悪魔の子へと移っていると、火を見るより明らかなのです。
「少し悠長に思っていましたが、早急に対策を立てるべきなのかもしれません」
「はい」
「セザール。騎士達を数人呼んで話をしたいと思っています」
「かしこまりました」
亡き奥様に良く似た、坊っちゃんの美しいお顔が引き締まる。ソルティコを任された領主代理としての責務が、脳内を占めた……と確信してもよろしいでしょう。
そして、次なる私の勤めが自然と定まりました。
坊っちゃんに手間をかけさせることなく悪魔の子を包囲すること、にございます。
続く……?(ちょっと疲れてきた)