吸血鬼さんと狼男くんのお話 終わり立て続けに発生した会話イベント(違)から約三十分後。
少年達は大広間にて楽しく談笑を行っていた。年季は入っているが傷は少なく、ピカピカに磨かれた革張りの大きめなソファ。それに寝転がって話すのは狼男の少年。
テーブルを挟んだ反対側にある、落ち着いた色合いが特徴の一人掛けソファに腰をかけているのは主であるルック。
長い足を優雅に組み、不適な笑みを携えて少年を見る瞳には表情とは対照的に優しさが灯っていた。
それは愛しい者へと捧げるものか、小動物を愛でるものか、正解は誰にもわからなかった。
「ねールックー」
穏やか……かどうかはわからないが良い空気感に包まれて行われていた談笑は、続く少年の一言で、終わりを迎えることに。
「ぼくそろそろ帰るー」
「なに、もう眠いの?」
どこに行った、何をした、誰と会った……など聞いてもいないのに楽しそうにペラペラと喋ると言ったパターンが多いようだが、今日は違うパターンに進んだようだ。
睡眠欲に負けたのか、と推察したルックは腰を上げ、外へと向かう準備を始める。マントを軽く叩いていると、起き上がり脱ぎ捨てていた靴をいそいそと履いている少年の姿が彼の視界に入った。
別に急がなくてもいいのに、と放つと、だって、と返ってきたのは歯切れの悪い返事で。
「テッドが「なんだって??」
聞きたくない名前が耳に入った刹那、声のトーンが一段階下がる。
「……ルック、顔怖いよ」
声だけではなく表情も連動して歪んでいたらしい。少年の言葉に自分こ顔が酷いことになっているとルックは知るが、そんなことは右から左に流れて外へと出ていってしまった。
「その言葉をストレスが溜まるから聞きたくないんだよね。気分が悪い」
棘を三重に巻き付けた言葉という名の刃が、少年へと向かう。しかし少年には全く全く効かなかった。理由は当然……彼宛ではなく、テッドという者に向けたものだったから。
「何でそんなにテッ「は??何で言った??」
今度は名前の途中で被せてきた。ドスの効いた声に冷気を纏った視線を添える。
その上造形の良い顔が、恐ろしいくらい歪んでいると言うとんでもないバフも掛かっていて。
「……何でもない」
先に降参の意を示したのは少年だった。これ以上何か言ったら命ではない何かの危機に曝される、と本能が恐怖を感じ取ったらしい。
「そう」
「えーと……ぼく帰る!じゃーねルック!今度来た時はハンバーグよろしく!」
「あっ、コラ」
人一人なら余裕で出入りできる大きさの窓を開けた少年は、生まれつき備わっている高い身体能力を駆使し、あっという間に屋敷から脱出を決めるのであった。
「……怖がらせてしまったね」
少年が去った後、賑やかな雰囲気は一気に消えていき静寂が訪れる。
二人で話をしている時は聞こえなかった蝋燭が燃える音が、ルックの耳にスルリと入ってきた。
「どうせまた来るだろうし」
零れ落ちる言の葉にほんの少し宿る喜びの感情。
「疲れた……さっさと寝よう」
吸血鬼という種族はであるが、人と同じサイクルの行動を取る時もあるらしい。ちなみにそのことをかの少年が知っているかは、不明である。
「ん」
部屋へと帰る前に窓のある方へと向かう。戸締りをきちんと終え、少年が消えた方角を見据えると、溜息を一つ零した。
「楽しみの一つでもあるんだし、見送りくらいさせてよね」
少し寂しげな笑みを浮かべると、音を立てることなく消えたのであった。
広大な森の奥に佇む屋敷での一幕は、一旦ここでおしまい。
……次は誰が少年は出会うのでしょう?
終わり