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    mocconiwa

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    mocconiwa

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    去年のハロウィンから着想したパロの小説(1/2)
    一年擦り続けたしまだ書き終わってない

    宮廷魔術師×宮廷医師 宮廷仕えの魔術師というのも楽ではない。

     散らかり放題の大広間。大勢の賓客が歌って踊って、飲み食いに興じた放蕩の夢はとうに醒めた。
     華美な舞踏会をより絢爛に彩る為に私が咲かせてまわった花も、舞い散らせた花弁たちも。踏みつけられ床にこびり付いてしまえば、頑固な汚れでしかない。
     
     かわいそうだね、見るも無残な薄汚れたち。これ、魔術だけで落ちるかなあ。……落ちなければ仕方ない、幻術で隠して見えなくしてしまおう。
     ひとつ溜息をつく。私はここで舞台の演出家、又は掃除夫としてーー宮廷魔術師の名で城主に囲われているのだ。
     
     「魔術の無駄遣いだ。もっとこう、王様の悪巧みに手を貸すとか、そういうの。無いものな?」
     
     雇用主の顔を思い出しながら暫し逡巡する。
     
     「……ふむ。全く期待できそうにない。」
     
     そういえば、彼はどうしたろう。同じくこの宮廷に仕えるあのお医者さんは。宴の中でちらと姿を見かけた際は、酷く憤慨している様子だったけれど。
     
     そう、たしか。
     
     「やれ食べ過ぎだの酔っ払いだの、足を捻っただのと、つまらん!そんなつまらないものを僕に診せに来るな!愚患者共!」
     
     ……だ。
     今の物真似、なかなか似ていたと思う。
     
     お医者さんから発せられたとは思えないパンチの効いた台詞を吐きながら、患者をテキパキと治療してまわる姿は痛快そのものだった。
     私は演出家として会場に花を咲かせていたから、あまり長く見物できなかったけれど。
     それでも。強烈に焼き付いた彼を思い返して、思わず笑みがこぼれる。
     
     全く親しいわけではなかった。せいぜい業務連絡で顔を合わせた程度で、交わした言葉もそう多くは無い。けれど、彼はとても目を引く……有り体に言えば、大変私好みの美しい容貌だった。
     
     そうだーー思いついた妙案に自然と口角が持ち上がる。
     
     「福利厚生は大切だからね。彼にとっても、当然私にも」
     
     そうと決まれば、さっさと片付けを終わらせよう。杖を振りかざして、風を起こす。塵芥を巻き上げて宙に浮かせて、ひとつに固めて、ホイと焼却炉に転送した。
     
     
     大理石の路に敷かれた深紅のベルベットを踏み締める。
     廊下の脇には壺だとか甲冑だとか、美術品が飾られていて、凡そ従業員用の棟とは思えない豪華な造りだ。
     
     時刻は既に夜半過ぎ。従業員たちは各々の時間を過ごしているのだろう、静まり返っている。灯りは窓から射し込む月明かりのみだったが、今の静寂にぴったりだった。
     長く続く直線、沢山の扉たちを通り過ぎ進んでいく。この一番奥の扉が彼の個室だ。
     コン、コン、コン。木製のドアを三度叩けば、扉の向こう側から物音が聞こえてきた。
     良かった、まだ起きていたらしい。パタパタと足音が近付いて来て、そしてゆっくり扉が開く。
     覗き込むようにこちらを伺う彼。手に持ったランタンの橙色に照らされた顔がとても綺麗だ。柔らかい橙がよく似合っている。
     
     「や、こんばんは。いい夜だね」
     「ああ…こんばんは……む、魔術師か。何の用だ……いや聞くまでもない事だ。こんな時間に僕を訪ねてくる理由は一つしかない。急患だな?」
     
     「……うん?」
     形式的に夜の挨拶を済ませると、彼は間髪入れず捲し立てるように話を進めていく。こちらの話など一切聴かず、待っていろと一言残して室内に戻る。パタパタと音を立てて、今度は往診用のドクターバッグを携えて現れた。
     
     「すぐに行くから案内しろ。患者の様子はどうだ?歩きながらでいい……おまえの所感は不要だ、事実だけを教えろ」
     「うーん。患者は居ないよ。私は、キミに用があって来たんだ」
     「……なに……?」
     
     訳が分からない、と言いたげな顔だ。
     宴の席では“つまらない患者は診たくない”と言っていたのに、意外と患者想いなんだな。やはり面白い人だと感心する。
     けれど思い返せばあの場でも文句を言いながらも全て治療してまわっていたのだ。根っからのお医者さんなのだろうか。
     
     「では、おまえがどこか悪いのか?」
     お医者さんは尚も眉を顰め、不審そうに訊ねる。
     
     「いいや?どこも悪くないとも」
     「では何故来た。僕に何の用だ?」
     
     不快感を隠そうとしない怪訝な表情。みるみる温度を失っていく冷ややかな瞳がとても好い。整った顔立ちは負の感情にあっても美しく、つい見入ってしまった。
     そうして流れる沈黙が彼の眉間の皺を一層深くする。そろそろ何か言わないと不味そうだ。
     
     「ーー今日は疲れただろうから、労い…というかね。どうかな、私と庭園を散歩でも」
     
     手を差し出し、紳士的でスマートなお誘い。
     澄んだ翠の瞳は私の手と顔を交互に捉えて映し出す。
     じ、と。見つめ合ったかと思えば、彼は、ぱか、と小さな口を開いた。
     
     「しない。帰れ。患者が居ないなら僕に用はない……疲れたならさっさと寝ることだ。ではな」
     
     小さな口でテキパキと告げて、バタンと扉が閉まる。その上ガチャンと音が鳴り、鍵を掛けたのだとわかった。
     
     「あっ! ちょっとキミ、う~む…… そうきたか……」
     
     彼は即断でNOを突きつけ、部屋の奥に引っ込んでしまった。呆気なくゲームオーバーだ。彼の体温を期待していた手が冷えて、とても虚しい。
     ……まさか、嘘だろう?
     
     「ちょっと、ねえ……」
     
     コンコン、コンコンとしつこく扉を叩いてみるが、声はおろか物音ひとつ返さない。
     
     「……仕方のない人だな……」
     
     けれどこれしきのことで引き下がる私では無い。むしろ燃えてくるというもの。何としてもこの手を取って、時間を明け渡して欲しくなった。
     
     さて、手段は沢山あるけれど、どの演出でいこうか。私の好みとしては、とびっきりロマンチックで、とびっきり美しいものがいい。
     あれも、これも良いな、と考えていると胸が踊るような気分だ。
     踵を返し、浮き足立ってベルベットを踏み締めた。
     
     ***
     
     (何だったんだ?)
     
     しつこく響くノック音を無視して机に向かい、開きっぱなしの医学書に目を落とす。どこまで読んだんだったか。
     ……はあ、溜息が出る。妙な男に目を付けられたものだ。
     
     「……」
     
     奴の事は何度か、見かけた…ことがある。特に会話らしい会話を交わした記憶はない。僕たちの雇用主は凄腕の魔術師、魔術師の中の魔術師だと称していたか。
     だが、僕にとっては。問診票を出せ、検診を受けろといくら通知しても受診に来ない不届きな男でしかなかったのだ。先程までは。
     
     「……チッ」
     
     雑念が駆け巡って文字を追えない。すっかり集中が途切れてしまった。内容が頭に入らないなら意味は無い、今日は終いにするか。そう考え本を閉じようとしたとき。
     
     ーービュウ
     
     「……?」 
     
     突然、風が吹き込んだ。本の頁がバラバラとめくれていく。
     まさか、窓を閉め忘れていたのか?今の今まで、風はおろか室温さえ変わらなかったというのに。
     
     疑問に思い風の吹き込む方向を見れば、窓際に人影がひとつ浮かび上がっていた。
     
     「……はぁ…!?」
     
     「や、こんばんは。二度目だね」
     
     爽やかさすら感じる声が夜風に乗って届く。白色のローブと長い髪を靡かせて、窓枠に足を掛け乗り込んでいる魔術師がそこに居る。
     月を背負って、夜の逆光に照らされる魔術師から目を離せない。瞳が爛々として見えるのが妙に恐ろしく、緊張で唾を飲み込んだ。
     「っ……」
     妙な動きを見せたらすぐにでも……ぐっ、と反撃用にメスを握り締める。
     
     「……さっさと寝ろと言ったはずだが?」
     「まあまあ。そう言わずに」
     「は、会話をする気が無いのか?おまえ」
     「それ。よく言われるんだよねえ……」
     どうしてだろう、などと。ヘラヘラと締りの無い顔をする男は、本心がまるで見えず、何を考えているのか読み取れなかった。
     
     「わざわざ窓から乗り込んでまで、何の用だ……」
     
     警戒し距離を保って訊ねる。メスを握る手には汗が滲む。
     
     「そうだねえ……」
     
     男はこちらの緊張など意に介さないといった態度でゆっくりと口を開く。手のひらをこちらに向けて、目を細めた。
     
     「舞踏会のお誘いに来たんだ」
     
     散歩はお気に召さないようだし?そう呟く窓際の魔術師は、理解に苦しむ言葉をぽんぽんと吐き出している。
     
     「いつもお客様ばかり楽しそうだろう?ボクと、キミも楽しんでやろうじゃないか」
     「……意味がわからない。さっさと寝ろ」
     「三回目だ」
     「そうだ。何度も言わせるな」
     「ふーむ……参った。聞き分けの悪い子は、こうだよ」
     「は? どっちが……!?」
     
     パチン。
     魔術師が指を鳴らした直後、身体が浮遊感を覚え、視界が高くなっていく。
     浮いている。浮かされている。この男の魔術であることは明白だった。
     
     「なっ……!?」
     
     無防備に空中を漂う僕の身体。握っていた筈のメスはいつの間にか離れ、手ぶらで宙を掻いた腕を掴まれて男の側に引き寄せられた。
     「は!?」
     「しっかり掴まって、ね!」 
     タン、と魔術師の身体が跳ねる。空気が変わる。ーー窓から、夜の空に飛び出したのだ。
     いま僕の目の前には星を散りばめた紺色の空と、大きな月、そして魔術師のしたり顔。
     
     「……!」
     ようやく吸い込んだ夜風の澄んだ冷気が肺に突き刺さる。
     
     「っ、おまえ……!」
     「おぉっと、暴れないでくれ。キミだって、地面に叩きつけられるのは嫌だろう?」
     「! ……くっ……」
     「あー……いや、違うな……言葉を間違えた。そんな顔しないでくれ」

     そうは言うが。この男がその気になって手を離してしまえば、僕は為す術なく地面にぶつけられ潰れてしまうだろう。
     いまの僕は、この空恐ろしい言葉を吐く男に命を握られているのだ。
     
     「……悪いようにはしないから!」
     「信用できるか」 
     
     男の言葉は羽根のような軽さだ。その男の小脇に抱えられ、大人しく身を竦めてしがみつく。
     ふと顔を上げると夜風が頬を撫でる。冷たさが心地が好かった。
     
     「……」
     そうして夜の星空の中泳ぐ。この何を考えているのかわからない男と、その男に命を預けて。
     
     ーー妙な事だが、それは悪い気分では無かった。
     
     
     続
     
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