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    たまごやき@推し活

    アンぐだ♀と童話作家アンデルセンのこと考える推し活アカウント

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    カルデアアンぐだ♀、ハロウィン

    2020.10

    ##FGO
    ##アンぐだ
    ##カルデア時空

    ツバメに恋する親指姫 カルデアは古今東西の英霊が集まっている。だから今までにわたしが知らなかったような素敵なおまじないのことを教えてもらってそれを試すことにしたのだ。

     ーーキーアンドブック・チャーム。本と妖精の素敵なおまじない。
     まず、詩集や短編集の、自分が遭遇したい場面に鍵を挟む。その本を紐で縛って、ハロウィンまで引き出しにしまっておくのだ。
     するとあら不思議、妖精が願いを叶えてくれてその場面を夢に見たり、現実に起こるのだとか。ちなみに十一月三日までには本の紐を解いて元に戻すのがマナーらしい。

    「どの本に挟もうかな」
     図書館にはいろいろな本があって、候補は増えるばかり。それでも最後にこの本を選んでしまったのは、わたしの好きな人の作品だから。本の内容も子供の頃から好きなのだけれど、少し贔屓してしまった。
     妖精が願いを叶えてくれる。夢の中で起こるかもしれないファンタジーな出来事にトキメキながら本に鍵を挟んだ数日後のハロウィンの日ーー異常に気がついたのは朝目覚めた時だった。

    「……何だか苦しい」
     何か重いものを身体に乗せられている、圧迫感で目を覚ます。ベッドの端が見えない、毛布は一体何メートルあるのか。辺りを見回してみれば、遠くに見える巨大なソファにテーブル……。
     そんなファンタジーなことが本当に? 今のわたしの身体はくるみの一粒よりも小さい。それは親指の半分ほど。
     思い当たる原因は、机の引き出しの中にある一冊……鍵の挟まった親指姫の本だった。


    「心当たり? 俺にあるわけがないだろう!」
    「だよね……」
     カルデア中に私の状況が知れ渡った後でも、皆わたしを見て目を白黒させるばかり。
     ハロウィンの仮装に参加してる場合ではなくなってしまった。とにかくあらゆる面から情報を得るために本の作者にも話を聞くことになったのだ。

    「それにしてもお前がそんなファンタジー変身願望を持っていたとは」
     くるみの殻を磨きながら、彼は意外だったと驚いた。それからスミレの花びらをくるみの殻の中に敷き詰めて、薔薇の花びらをふわりと上にかける。
    「ほら、できたぞ。こんなことが元に戻るきっかけになるかは分からないが、まぁ……気休めにはなるだろう」
    「くるみのゆりかごだ!」
     子どもの頃のわたしはずっと、これに寝てみたかった。だからわたしは本に鍵を挟む時、親指姫が遊んでいるページを選んだのだ。小さな身体でくるみのゆりかごで眠る親指姫……ロマンのある話。ふかふかのすみれのシーツの上に座ってバラの布団を引き寄せる。
    「ありがとう、アンデルセン。何だか子どもの頃の夢が叶ったみたい」
    「……ふん、案の定身体が元に戻るような気配はないようだがな」
    「でも嬉しいよ。これならしばらく小さくってもいいかも」
    「馬鹿を言うな。こんな小粒になってレイシフトができるわけがないだろう」
    「もう、分かってるよ!」
     相変わらず手厳しい。
    「一通り試すと言っても……何だ、次は羽でも作って背中につけてやれば良いのか? それともチューリップのボートでも漕ぐのか?」
    「どっちもやりたいけど……うーん、」
     小さくなってメルヘンなことを体験するのはとても楽しい。けれどせっかくの機会なら、もっとやって欲しいことがある。
    「あのね、わたしを乗せてほしいの」
    「何だ、俺をツバメの代わりにしたいのか」
     ツバメが親指姫を乗せて運んだみたいに、アンデルセンに乗せてほしい。
    「ダメかな?」
    「面倒なやつだな……責任は持たないから落ちるなよ」
     ひょいとわたしを摘み上げて肩に乗せてくれる。
    「次は何だ、お前をどこかに運んでやればいいのか」
     そう言って歩き出す速度は、いつもより緩慢だ。
    「運んでもらいたいところがあるわけじゃないけど……しばらくわたしを乗せて歩いてほしい」
     もし小さくなったら、好きな人の肩に乗せてもらって甘えてみたいと思っていた。

     食堂に行って、朝食のマフィンをちぎってアンデルセンに分けてもらった。それからお皿の湖にチューリップのボートを浮かべて遊んでみても、アンデルセンお手製の羽を背中につけてみても……わたしの身体が元に戻ることはなかった。

    「物語に書いてあることを体験すれば、身体が元に戻るのかと思ってたんだけど……」
     体験したい遊びは一通りこなしてしまった。サイズまで親指姫の仮装をしているような格好のまま、途方に暮れる。
    「そう単純な話でもないらしいな。妖精が願いを叶えてくれるだなんて、呪いみたいなものだ」
     レースの切れ端で小さなスカートを縫いながら彼が言った。
    「そんな、呪いだなんて」
    「実際に不利益を被るのなら祝福ではなく呪いだ」
     今日一日、好きな人の肩に乗って、一緒に過ごすことができた。わたしにとっては嬉しいことの方が多い。でもさすがにずっとこの大きさのままではマスターとして問題だ。

    「呪いの解き方かぁ。……ほら、例えば王子様のキス、とか?」
     物語の中なら、王子様のキスが呪いを解くのに必要だとよく言う。
     ただの例え話だけれど、もしかしたら『王子ではないが試してみるか?』、なんて言葉が聞けるかもしれないと淡く期待をしている。
    「どれ、ツバメらしくお前を王子のもとにでも運んでやろうか。ここはどうせメルヘンのカケラもないような戦闘狂や研究者ばかりの場所だが……候補がいるなら連れて行ってやるぞ」
    「えっ! 別に、そんな候補なんていないし」
    「どうだか。……嘘が下手だな。細かい事情は詮索しない。俺に言ってみろ」

     嘘はついていない。
     候補なら、目の前にいる。
     ……どちらかと言うとツバメのような彼だ。わたしにとっては王子よりもずっと、呪いを解いてほしい候補だった。それなのに王子のところに連れて行ってやるなんて言うのだ。

    「じゃあ、耳を貸して」
     彼がしゃがみこんでテーブルの上のわたしに耳を近づける。深呼吸をひとつ。
    「アンデルセン」
    「……何だ、こんな近くで。聞こえているから早く、」
    「だから、アンデルセンだってば」
    「…………?」
     ぽかんとしていた彼の耳がだんだんと火照るのが見える。わたしの小さな身体を温めるような熱を発している。
    「おい、お前は……一体何を、何が、どうして、そうなるんだ」 
     顔色が変わったのは、正しく意図が伝わったからだ。普段、他人の言葉で動揺する姿なんて見たことがない。この赤色はもしかすると、少しくらいは希望を持ってもいいんだろうか。

    「細かい事情は詮索しないって言ったじゃない」
    「そんなもの、時と場合によるだろう!」
    「……呪いが解けるか、試してくれる?」
    「王子でも解けるか分からないような呪いがツバメに解けるものか」
     頷いてはくれない。けれど、彼は断らなかった。
    「やってみなくちゃ分からないでしょ? それにわたしは親指姫なら、王子よりもツバメの方が好みなの」
     思えばお話の最後に出てきた王子よりも、姫を助けてくれたツバメの方がわたしは好きだった。
     呪いを解くのなら、王子よりもツバメがいい。
    「ツバメを見染める物好きなんて、お前の好きな王道の物語になりはしない。後悔しても知らないぞ」
     彼が仕方ないと言った態度でわたしを掌に乗せてくれた。それから、ゆっくりと顔を近づけて。

     それはまるでファンタジーのように、ぼわんという音と煙に包まれて……。
     もうすぐ触れ合うところで、わたしの身体はすっかりもとに戻ってしまったのだった。

    「…………」
    「…………」
     お互いにきょとんとして見つめあって、それからどちらからか分からない笑みをこぼす。

    「解けちゃったみたい。あともう少しだったのに」
     身体が元に戻ってしまったから、さっきまであんなに緊張していたのが嘘みたいに空気が緩んでいる。
     チャンスを逃したのは少し残念だ。もう『呪いを解いて』なんて言い訳はできなくなってしまった。
    「まったく、これだから……呪いを解く魔法なんぞ、物語の中で十分だ! 大体お前もごっこ遊びする歳でもないだろうが」
     彼が鼻で笑って悪態をついた。やっぱり実際は物語のように上手くいかない。

    「ーーそれじゃあ、ごっこ遊びじゃないキスをちょうだい」
     言い訳のできない誘い文句を発してしまえばもう後はない。けれど相手はタチの悪いごっこ遊びにむやみやたらに付き合ってくれるような人ではないのだ。
     今更、トリックオアトリートなんて言葉でごまかせるような状況じゃない。そもそもわたしはご褒美や悪戯じゃない、気持ちがほしい。

    「先ほどとは違う、不要不急のことなんだ。……下手だとか文句を言うなよ」
     彼の少し不器用な言葉とは反対に、わたしを引き寄せる腕の力はひどく優しい。焦らなくてもゆっくり目を閉じるだけの時間がある。

     きっかけは本と、悪戯好きな妖精と、それから彼の描いた物語。こうして、ハロウィンはわたし達の記念日となったのだった。
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