嫉妬は全て上塗りの下「なんかね、わたしのこと養子とか、お嫁さんにしたいんだって〜! ねぇ、どう思う?」
浮かれた様子で俺をニヤニヤと見て、彼女はそう言った。
……お前は俺がもらうのだからあいつにはやらん、だとか。あるいはそこまで宣言しなくとも面白くないと嫉妬した様子が見たいのだろう。浅ましい魂胆を隠しもしない。分かりやすくて結構だ。
「何を言うかと思えば。はっ……養子も嫁も好きにしたらいい」
あれは人間とは別の価値観で生きているのだ。人間と同じ物差しで「養子」や「嫁」を欲しがってるなど思わないことだ。――俺なら、嫁にしたいと思うような者を養子に、なんてことは考えない。まぁ人間の物差しで考えるのなら養子では愛せども、恋はできないだろうが。
「好きにしろって……」
たちまちむくれた顔で彼女がこちらを見ている。俺が嫉妬してやるよりはこういう顔を見る方が飽きなくていい。俺を嫉妬させようなんて、ろくでもない暇潰しをするからこうなるんだ。
「もう! 少しくらいヤキモチやいてくれたっていいのに」
彼女は手当たり次第に目の前のクッキーや紅茶を口に運び始める。ヤケ食いなら俺の取り分が減らない程度に抑えてほしいものだ。
「そもそもお前、重婚する気があったのか?」
「んぐっ!?」
ああ、これは喉に詰まらせたのかもしれない。早食いなんてするからだ。咽せる彼女にティーカップを手渡す。
「大体俺はあいつをお義母さんなんて呼ぶ気はないぞ。考えただけでぞっとする」
「…………っ! アンデルセン!」
「何だ、いきなりデカい声を出すな。俺は徹夜明けだと言っただろうか」
大きな声は頭に響く。ろくな休息がないと余計に効率が下がるから、わざわざこうしてここにきているというのに。
「今の、どういう……」
「そんなことくらい自分で考えろ。俺は休憩中だ」
淹れたばかりのコーヒーを飲み干す。
令呪で強行するという手もあるだろうに、目の前で黙って考え込む彼女のなんと素直なことか。こんな素直さで俺より上手を取れると思っているのならおめでたい。
「舐めるなよ、こっちは年季が違うんだ」
無駄に嫉妬などしてやるものか。恋愛経験などなくとも人生経験で上手を取れるうちはまだ、そんな表情を見せてやるつもりはない。
俺がこぼした言葉はもう彼女の耳には届かない。頬を染め考え込む彼女を見ながら、俺は彼女のティーカップに新しい紅茶を注ぐのだった。