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    たまごやき@推し活

    アンぐだ♀と童話作家アンデルセンのこと考える推し活アカウント

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    カルデアアンぐだ♀、バレンタインデー

    2022.2

    ##FGO
    ##アンぐだ
    ##カルデア時空
    ##恋人

    箱の中身はお二人で 今日はバレンタインデーというイベントの真っ最中である。マスターの故郷の、菓子業界戦略に則った催しもさすがに二年目にもなれば慣れたもの。
     数人のサーヴァントが俺に義理と称した菓子を渡してこようが、はたまたいくつ貰ったか貰わなかったの会話へ適当に相槌を打とうが、まぁそこまで大それたイベントではない。
     ともかく俺は今日も相変わらず締切に苦しんでいた。

    「アンデルセン、今時間あるかな?」
    「なんだマスター。また冷やかしか? 生憎だが脱稿なら夢のまた夢、遥か彼方だ」
     原稿中にマスターがやってくる。なんら珍しくない、ティーセットやらスコーンを持ち出して休憩の時間を提案してくるのはいつも通りだ。……それはそれとして、マスターが今日俺を訪ねてくる「理由」くらい見当がつく。
     あぁもちろん、今日はバレンタインデーなのだから。たとえばマスターが後ろ手で持っているその包みの中身は何なのか? 猿でも分かる。
     イベント事に託けて菓子を押し付けるだけだとしても、今や大所帯のカルデアで全員分の贈り物を用意しているのだ。随分とまぁ、今年も面倒な事をやっているらしい。

    「それで、用件は?」
     白々しく聞いたものの、マスターはその後ろ手で持った包みを出すタイミングを窺っているようだった。ポットの中のコーヒーを差し出すべきか、思案する。いや、今日のマスターが分刻みのスケジュールに追われているのは分かっているのだ。
     だが彼女がこの部屋に来た時点で恐らく後の予定は全て自分が優先されるだろうと、図々しくもそんなことを考えている。
    「今年も日頃のお礼で…………」
     去年と同様の文言が飛び出す。さてこの一年間で俺達の関係性が変化したのを踏まえてもう一声ないか、と思わなくもない。
     俺の目の前に包みを差し出すだろうと思ったのだが台詞の途中で不具合でも起こしたか、彼女は途端に動きを止めた。
    「どうした、何か気になることでも?」
    「えっ? いや、その」
     しどろもどろになる彼女の視線を追う。
     視線の先はなんてことはない、慣れ親しんだ自分の机の上。まっさらな原稿用紙、使い慣れたインク、それから。――俺が今日受け取った「義理」の贈り物がいくつか積んである。
    「なんだ、珍しいものでもないだろう?」
    「……あの、まさかこんなにいっぱいチョコが置いてあると思ってなくて」
    「俺もここでは古参の方だ、それなりにこの手の贈り物には縁がある。まぁお前ほど贈り物の在庫を抱える者もそうはいないだろうがな!」
     彼女がどこか気落ちした様子で机の上を見つめるものだから落ち着かない。こんな二月十四日の贈り物、ましてや当然義理の包みなどに彼女が気をかける必要はどこにもないのだ。
     日頃は独占欲をひた隠しにしている彼女から、垣間見えるわずかな不満。逃してやるほど耄碌していない。

    「なんだ、嫉妬か?」
    「えっ……⁉︎ そんなことないよ!」
     むしろこれが嫉妬でなくて何だという話だが。
     彼女が俺の前に出しかけていた包みを慌てて隠そうとする。机の上の箱に気後れしているらしい。
    「馬鹿め、本命が義理に気後れしてどうする」
    「ほ、本命って!」
    「なんだ違ったか?」
    「……違わないよ」
     アンデルセンはそうやって照れもせず言うんだから、と彼女が不満を漏らしながらリボンのついた箱を出してくる。
     勢いがないと言えない台詞だったのは言わずもがな、俺はこの菓子戦略的イベントに微かに浮かれていたことは反省しておこう。
    「それにしてもまさか、星の数ほどのチョコレートに囲まれているお前がこんなささやかな量の義理チョコに嫉妬するとはな」
    「それとこれとは別でしょ! ……だって、わたしだけだと思ってたから」
     大体お前がそんなもので嫉妬するというのなら俺にはその数十倍は嫉妬する権利があるくらいだ。まったく、こいつはそのあたりのことを自覚しているのだろうか。
    「は、この大所帯で逐一嫉妬していてはキリがない。お前もほどほどにしておいた方がいいぞ」
     本当にほどほどにしておくのがいい。でなければこうやって、如何に相手を自室へ帰らせないか考えるばかりになってしまうのだから。
     早速手に入れた箱のリボンを解き、中を確かめる。ハート形をひとつ口へ放り込み、甘ったるい味を噛み締めれば去年より幾分腕が上がったような気もするが、これは恋人の贔屓目があるかもしれない。

    「アンデルセンは嫉妬とかしないのかもしれないけど……義理でもちょっとは気になるの!」
    「それはそれは、俺が面倒の少ない相手で良かったじゃないか。……そこまで気になるのなら種明かししてやるが、あの包みの半分はお前宛だぞ」
    「えっわたし? アンデルセンがもらったのに」
    「お二人でどうぞ、だそうだ」
    「……付き合ってるって、言ってないよね?」
    「さぁな、お前の顔にでも出てるんじゃないか? まぁそんなことはいい。お前宛でもあるんだ、当然食べていくだろう?」

     揃いも揃って「マスターとお二人でどうぞ」。――実のところ周囲に筒抜けているのは彼女の顔色ではなく俺の態度なのだろう。分かっているのだがわざわざ丁寧に説明してやる義務もない。
     彼女用のカップにコーヒーを注ぐ。どうせ夜更かしを気にする必要もない、この時間だろうが配慮は必要ないだろう。

     未だに「お二人で」の文言が気になるのか、頬を染めたまま考え込む彼女を眺めたまま夜は更けていく。この分なら筒抜けている事実に気がつくのはまだ当分先だろうか。
     食べたばかりのチョコの甘さをコーヒーで流しながら、そんなことばかり考えていた。
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