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    たまごやき@推し活

    アンぐだ♀と童話作家アンデルセンのこと考える推し活アカウント

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    カルデアアンぐだ♀

    2021.10

    ##FGO
    ##アンぐだ
    ##カルデア時空

    重なる心と矛盾点 座から呼び出しに応じる。記憶はなくとも記録にある、幾度となく繰り返された流れ。いつもとそう違わなかったはずが、この場所は初見ではないと肌で感じとる。――霊基の二重召喚。
     俺がこのカルデアとやらに召喚されたのは、おそらく一度や二度では足りないほどだ。
     さらには目の前の、召喚者。その女が俺と随分長い付き合いであることすら感覚に刷り込まれる。
     同じ場に二体もの同一サーヴァントが召喚されたことで感覚を共有しているらしい。召喚されて長い方に共鳴するように理解させられている内容が、俺には大層都合が悪いものであった。
     絆十五、という何で測りとったかも分からない数値。少なくともそんな数値を叩き出すのなら、ある程度は我慢して仕事を請け負ってやってもいい相手ということだろうか。
    「……三流サーヴァント、アンデルセンだ。本棚の隅にでも放り込んでおいてくれ」
    「これからよろしくね」
     今まで同じ場に重ねてサーヴァントが召喚された事例など知り得なかったが、実体験をするハメになろうとは。さらには召喚を行ったマスターの後ろには見知った男の姿。
    「何だ、また座から『俺』を喚びだしたのか? まともに戦力増強をする気があるのかお前は」
    「またそんな、戦力外みたいに言って。うちはアンデルセンがいないと困るんだから」
     目の前の女は、カルデアに長く滞在するハンス・クリスチャン・アンデルセンに目をかけているらしい。
     異常なほどに強化を重ねられ、幾度となく共に戦地へ向かった、その事実が己のエーテル体にも重なっている。
     作家を先頭に連れ出すこと自体が狂気の沙汰だが、サーヴァントである以上は仕方ない。しかし、戦力を一番に求めた同行でないことは嫌でも分かる。
     どうやら今度のマスターは戦力、男の趣味ともに節穴と物好きにも程のある有様だ。それはまぁ好きにすればいい、別に構わない。今や世の中の需要など青天井だ。
     だが、対して目の前の男について。これが非常に良くない。
     随分絆されているのは分かっていた。召喚されて付き合いが長いとなれば、それなりに上々な仕事場なのだろう。……だがその、『絆される』の詳細がまずいのだ。
    「は、俺を戦力に数えるような貧弱さで人理修復など、夢のまた夢だぞ。その上リソースの分配に計画性もないときた」
    「ちゃんと計画してるってば! ほら、だってアンデルセンが宝具を使ってくれるとすごく助かるし」
    「これだからお前は……日に何度も締切を強要される作家の気持ちも分からんのか?」
     呆れたように言う男の態度、声色。それが、残念ながらどう考えても、ただの編集者に向ける物を過度に越していた。
     気に入らないのなら勝手に戦いを放棄するくらいやる自分なのだ。書きたい題材のないマスターに長く付き添うわけもない。それでも自分はペンを握って懲りずに原稿を仕上げているときたもんだ。
     親が子を思うのとも違う。戦地で戦友に抱く情とも違う。どれもこれも、違う。そこにひとつ、当てはめられるものがあるとするなら。……ベースは同じ人物なのだ、読み違えるわけもない。あぁ懲りもせず、死後もなお、ままならないことは山のようにある。
     こちらを見る男は注釈も感想も必要ないと目線で釘を刺してくる。余計なお世話、と言ったところか。
    「さて、残念ながらここは社畜の溜まり場、連日締切の泥沼、納品後の修正依頼の山のような環境だ。いっそくべられて座に戻るか?」
    「鏡でも見ているかのような気分の悪さだな。だが喚ばれたからにはこれも仕事だ、召喚代金分くらいは働くさ」
     座に戻る選択肢もあった。だが、僅かな興味が勝ったのだ。ここまで己が入れ込んでいるらしいマスターの存在。のめり込んだ詳細はいくらか、貴重なサンプルケースにでもなりそうだ。

     目の前の自分と重なるように存在強度を増していく。風評被害で得る魔力も二倍とくれば、それなりに戦闘力も上がるものだろうか?
     身を重ねる過程で張り裂けそうなほどに注ぎ込まれる記憶と記録の渦の中、俺は結局労働から逃れられないらしい。
     あぁ本当に、我がことながらぬかるみに足を取られて抜け出せなくなっているようなのだ。
     こちらを心配するマスターの熱視線がどうにも、俺には耐え難い。……そう心配するほどのことでもないだろうに。

    「無駄なリソースの消費などしていないで観察力を磨け。いくらか役に立つ。人生を僅かばかり豊かにするかもだ」
     態度を見るに、どうやら目の前の彼女はまだ知らない。俺の心の赴く先など知らないから、アピールに暇がない。失恋の心配など皆無だというのに、まったく無駄なことをしている。まぁそんなもの、この身で伝える気など毛頭ないが。
     恋に破れた記憶しかない自分が気持ちを寄せられているなど、おかしな時代になった。浮つく心を抑えながら、僅かに強化されたばかりの霊基を持て余しては思う。
    (恋は盲目、とは言うが……)
     彼女が心配からこちらに手を伸ばす。
     それにしても少しは。……少しくらいはこちらの意図に気がついても良いだろうが。
     伝える気もない気持ちのくせして矛盾に塗れた感想を抱きながら、図々しくも体調を崩したフリで彼女の手をとる。
     その手ははっとするほど温かだった。
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