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    たまごやき@推し活

    アンぐだ♀と童話作家アンデルセンのこと考える推し活アカウント

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    現パロアンぐだ♀

    2020.11

    ##FGO
    ##アンぐだ
    ##現パロ
    ##成長童話作家
    ##モブ視点

    お二人さん、乗り過ごさないでね 私が乗っているバスは大きな森林公園にも向かうもので、ピクニックやハイキングに行く客をたくさん乗せている。仕事帰りの疲れ切った私の前でぐずって泣き叫ぶ子どもが多いのなんの、バスで鉢合わせないことをいつも祈っている。皆が土日休みだと思わないでほしい、土日に仕事でクタクタの身体でレジャーを楽しむ人々に囲まれるのはなかなか辛い。

     今日は平日。この路線はレジャー以外で利用する人が少ないから、平日の夕方に座れるのだけが利点だ。バスに乗り込み、後ろの方の席に狙いをつける。乗客は今乗った私の他に二名。
     私の斜め前の座席に座る、明らかに森林公園帰りだと思われる二人組は珍しい。帽子を被った男性と、その隣に女性。二人ともリュックを膝に乗せていた。
     まぁ二人でピクニックに行くならカップルだろう。端的に言って二人とも顔が良い。……結構若いように見える。平日にピクニックするなら、学生だろうか。彼女の方は時々寝落ちしそうになりながら、首をカクカクと動かしている。

    「まったく、疲れないから平気だと歩き回ったのは誰だ? お前が勝手に乗り過ごしても俺は責任を取らんぞ」
    「大丈夫……起きてる……」
     彼氏の方は恋人にしては随分心ない台詞だ。斜め後ろから見ても明らかに可愛らしいそこの彼女! ちょっと、付き合いを考え直した方が良いのでは?

    「下見くらい俺一人でも足りただろう。こんなことにわざわざ同行する必要があったのか?」
     それを聞いておや、と思う。もしやこれ、デートではない?
    「うん、いや、でもマシュには早く紅葉の写真を送ってあげたくて……」
     みんなで集まる頃には紅葉の見頃を過ぎちゃうから、と彼女が続ける。そういえばあの森林公園はバーベキューとかもできるんだっけ。つまり、今日はグループで集まる前の下見なのだろうか。……会話が始まる前は良い雰囲気の二人に見えたのだけど。

    「……物好きな奴め。それとも暇なのか?」
    「暇じゃないけど! でもほら、わたし達、休みが重なるの珍しいでしょ?」
     それから、プロジェクトで残業も多くなっちゃったしなぁ、と彼女が言った。社会人だったらしい。
     彼女を後ろの方から見ると、時々彼の方をちらりと見ているのが分かるのだ。可愛らしくて微笑ましい気持ちになってしまう。片想いの彼と一緒に過ごすために森林公園についてきたという理由もあるのだろう。何て健気……! 眠そうにしながらも彼と会話していたいんだろう、時折目を擦ったり首を振って眠気を払っている。

     それから二人はポツポツと会話をしていたけれど、とうとう彼女は眠ってしまったようだった。無意識に彼の腕に少しだけ身体を寄せるようにして、すやすやと寝息を立てている。起きている時にも分かりやすい態度の彼女は、寝ている間も好意が分かりやすい。
     でも先程の、彼の彼女に対するすげない態度から考えると、無理やり起こすなりギリギリまで身体を離すなりするんじゃないだろうか。バス車内で修羅場を起こすのはやめてほしい。少し心配になりながら見守る。

    「っ……!」
     見守りながら、思わず息を呑む。
     彼が眠る彼女の肩をぐい、と引き寄せたのが見えたのだ。それから小さく舌打ちすると、彼女の小さな頭を自分の肩口に固定する。
    「忙しいくせに、疲れるようなことに首を突っ込んでどうするんだか……」
     ぼそりと、彼女には届かない小さな声で文句を言うと、そのまま彼女の頭に手を置いてさらりと髪を撫でる。それからすぐに体勢を元に戻してしまった。最終的な状態だけ見れば、彼女が勝手に眠ってもたれかかっているかのよう。この一瞬の出来事に、私はついていけない。今のはなんだ、一体。誰か、解説と実況を今すぐ。
     仕方ないやつだな、と言いたげにしながら、さっき彼が見せた顔は、どう見ても。誰が見たって愛しい恋人に向ける顔つきだった。その視線を垣間見ただけで、胸焼けしそうになって思わず目を逸らす。リア充は非リア充の健康に悪影響を及ぼします。

     それでもやっぱり二人が気になってしまい、しばらく経ってからもう一度見ると、彼の頭が彼女の方にもたれかかるように傾いていた。二人とも眠ってしまったらしい。……好奇心に負けて見るんじゃなかった。

     ……え、何。それで、やっぱりこの二人、付き合ってるの? 

     互いにもたれかかり合う二人を見ながら、湧き上がる疑問を解消してくれる人は誰もいない。時間が経つにつれて、隙間を埋めるように身を寄せ合っていく二人を視界に入れる。どこからどう見ても、その姿は恋人でしかあり得ない。どうもご馳走様でした。

     疲れ切った仕事帰りにイチャつく恋人達にあてられて、私は疲労が増したような気がすらする。そして幸せそうな二人を前に私はこう思うのだ。……頼むからイチャつくなら、次はぜひ、家でやってくれと。
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