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    たまごやき@推し活

    アンぐだ♀と童話作家アンデルセンのこと考える推し活アカウント

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    現パロアンぐだ♀、先輩×後輩学パロ時空

    2020.9

    ##FGO
    ##アンぐだ
    ##現パロ
    ##学園
    ##青年実験

    ペットのきもち増刊号 学園の中ではスポーツができる男の子の人気がとても高い。人気なのはとくにサッカー部と野球部。でも、わたしの気になる人は運動部に所属していない。ーー図書委員ではないはずだけれど、いつも図書室にいるあの人。ネクタイの色が違うから、上級生だ。歳上なせいもあるかもしれないけれど大人っぽい。背が高くて格好いい。

     図書室の奥の方でいつも本を読んでいる先輩に声をかけてみたい。でも漫画しか読まないわたしには、あの先輩と話せそうな話題もなくて。……オススメの本を聞いてみようかな? でも、いきなり話しかけて怪しまれないだろうか。今日も声をかけられなくて、先輩がいるテーブルの近くをうろちょろする。本棚の前で時折本を取り出してみて、しまって、まるで読む本を選んでいるみたいにして。よく考えたら静かに本を読んでいる先輩は隙がなくて、話しかけるタイミングがない。それに読書を楽しんでいるのに、声をかけたら迷惑かも。

     昔の図書室の本は図書カードがついていて、借りる時に名前を書き込んでいた、らしい。その名残で図書館の本の一部にはカードが入っている。だけど今はバーコードを読み込むだけになって、誰が借りたのか分からない。カードに名前を書く時代だったら、先輩の名前が分かったかもしれないのになぁ。
     先輩が読んでいる本のタイトルをこっそり盗み見て、後で同じ本を借りようかな、話しかけるきっかけがほしくてちらっと先輩の方を眺める。
     涼しそうな青色の瞳。タイミングが重なって、ばちりと目が合ってしまう。同級生とは比べ物にならない大人な視線に晒されて、それで。だから……つい。
     

    「で、逃げてきたわけ?」
    「だって、何話せば良いか分かんなくて」
    「挨拶すればよかったのに。周りをうろちょろしてるくせに目が合ったら逃げてくとか不審者じゃん」
    「……変な子だと思われたかな」
    「そりゃ思われたでしょ」
    「どうしよう! もう図書室に行けない……」
     不審な後輩だと思われているのに、今度近づいたら怪しまれてしまう。



     最近、図書室に入り浸っているとよくオレンジ色の髪を見かける。
     本棚から本を取って、借りるのかと思いきや元に戻す。そんなのを三十分以上も繰り返しては、結局何も借りずに帰っていく。一体何がしたいんだ。ちょこまかと俺の視界の端に映る橙色の頭。忙しない動き。時折感じる視線は、こんな回数繰り返されてはもう気のせいではないはずだ。会話をするわけでもなんでもないが、何とはなしに気になる。そもそも後ろ姿しか見たことがないが、どうにもよく分からない挙動を繰り返しているその姿が…………ここだけの話、ハムスターのように見えてしまって。

     我が家で飼っているハムスターは普段はおがくずの中に埋もれているが、人によく慣れていて俺の手には怖がらず乗ってくる。手のひらの上で動き回ったり、餌を食べたりするのは見ていて面白い。彼女があまりにもよく似ているものだから、話しかけてみるのも面白いかもしれないと考えたのだ。ほんの気まぐれに過ぎない。

     話したこともない下級生にいきなり声をかけたりして、不審に思われないだろうか。しかし、敢えて言うのなら……毎日のように図書室の本を眺めているが何も借りない彼女を見るに、何か読むものを探しているがピンとくる本がないのかもしれない。本であれば、少しくらいは自分でも勧められるだろう思い話かけた。ーーというコンセプトであれば話しかけるのに違和感はないだろう。実際のところ、恐らく彼女は読書には大して興味はなさそうだが。

     それは話しかけるタイミングを計るために彼女の様子を見ようと顔を上げた時だった。いつも本棚の方を見ていた彼女と真っ直ぐに目が合ったのだ。
     後ろ姿は何度も見たが、正面から姿を見るのは初めてだった。前から見た彼女は、後ろ姿と大して印象も変わらず……なんとも小動物めいている。不用意にこちらと目が合って驚いている素直そうな表情と、大きな目と。それから、何も言わずに一目散に引き返して図書室を出て行った俊敏なところが、小動物らしい。……逃げられてしまったから、会話はできなかった。
     あのリボンの色は1年生だ。下級生。学園の中じゃせいぜい二歳程度の年の差しかないというのに、違う学年の異性と会話をするだけで周りはやれロリコンだのショタコンだのうるさい。正直話しかけにくい相手だ。だが、あんなにもちょこまかと周りで動いていたのがいきなりいなくなるとなれば、逆に落ち着かなくなってしまう。図書室で過ごすあのささやかな時間は、存外俺にとっては貴重な休憩時間だったのだ。


     逃げてしまったから図書室には行きづらいけれど、変な下級生だと思われたままなのをどうにかしなきゃ。でも、上級生の教室がある階にはとても行けない。それに時間が経てば経つほど図書室に行きにくくなってしまう。……結局私は今日もまた図書室に来て、いつも先輩が使っているテーブルをずっと遠くの本棚の陰から覗き込む。
    「あれ……」
     いつもはあのテーブルに腰掛けて本を読んでいるのに、今日はいないのか。先輩がいないことにがっかりして、けれど少し安心する。

    「ーー僕に何か用があるのか?」
    「わ、」
    「図書室では静かに」
    「!」
     背中を本棚につけたまま、目の前には探していた先輩の姿。思わず出した大きな声を咎めるように、口を手で押さえられてしまった。距離が近い、こんなに近くで会話することになるなんて。きゅっと口を閉じて黙っているとしばらくしてからようやくわたしの口を押さえていた手から解放される。
    「それで、僕に何か用事が? 君はしょっちゅう図書室に来ているだろう。……まぁ昨日は逃げられたが」
     案の定逃げたことを根に持たれてしまっている。何もしていないのに下級生が自分の顔を見て逃げ出せば、気に入らないのも仕方ない。少しお近づきになりたかっただけなのに、もう好感度が最底辺だ。
    「え、あの……」 
     先輩のことが気になって、話しかけてみたかった。だけど、そんなことを言ったら告白しているみたいなものだ。初めて話す相手なのに、そんなことを言われたらいくらなんでも困るだろう。どうしよう。
    「ええと……あ、そうだ! 先輩その、いつも何の本読んでるのかなって気になってて、用事ってほどのことではないんですけれど!」
     どうにか思いついた理由を吐き出して、彼の反応を伺う。さっきまでぽかんとしてわたしの話を聞いていたのに、途端に何かを企むように目を細める彼の姿が見える。もう背中はぴったりと本棚にくっついているのに、反射的に身を引こうとして全身で痛いほどに本棚を押す。逃げ場はない。ついでに周囲には人気もない。
    「……そうか」
    「はい、そうです先輩!」
    「だが、君は一度もここで本を借りたことはないだろう? てっきり読書にはそんなに興味がないのかと思っていたが」
    「えっ!」
     なんで。どうしてわたしが一度も本を借りたこともないって、知っているんだろう。

    「まあ細かい事情はどうでもいいが……僕の本は図書室のものではない。自前のものだからね。図書室に本を返すのを待っているのなら、いつまで経っても返却はされないよ。……だけど読みたいのなら、そのうち貸しても構わない」
    「!」
     不審だと思われていたみたいなのに、丁寧に質問に答えてくれた上に本を貸してくれるだなんて! 物腰も口調も穏やかで、とっても大人だ。先輩が持ち物を貸してくれる、なんて。

    「それじゃあ先輩、本を貸りてもいいですか?」
     本にはそこまで興味がないけれど、せっかく貸してくれるなんてこれはチャンスだ。仲良くなりたい……!
    「……いつ僕が読み終わるか分からないからね。また、ここにおいで」
    「は、はい!」
     しかもまた会う約束までして。格好良い上級生にこんな風に親切にされるなんて! 昨日までは考えもしなかった上級生との交流に、わたしは少しだけ読書を頑張ってみようと誓うのだった。


     あぁ、こちらの魂胆を疑いもせず、本を借りたいと言い出す彼女は、もしかするとハムスターより犬らしいかもしれない。いかにも主人に忠実そうなところが。いずれにしろまるでペットを手懐けはじめたような奇妙な感覚だ。愛らしい彼女は俺がどういうつもりなのか、考えていないのだろうか。
     この本を貸すと言ったのだから、明日彼女がここに来たら隣に座らせてみようか。待つ間は退屈だろう、何か宿題があるのなら片手間に教えても良いだろうし、何もないのなら別の初心者向けの本を貸して隣に置いておけばいい。緊張しながら俺に遠慮がちに話しかけていた彼女が、気を許すまでどれくらいの時間がかかるだろうか。……この本が海外のものだと、彼女が気がつくまでどれくらいの時間がかかるのだろう。もちろん読むと言ったのだから、後には引けないような状況で。
    (動物を懐かせるのは得意だが、さて……)
     
     相手は小動物めいた下級生。期限は俺が本を読み終えて彼女に貸すまで。……ゴールを設定するのなら、彼女に読めない海外の本の読み方を教えてくれと依頼されること、くらいのものだろうか。
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