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    たまごやき@推し活

    アンぐだ♀と童話作家アンデルセンのこと考える推し活アカウント

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    カルデアアンぐだ♀

    2020.8

    ##FGO
    ##アンぐだ
    ##カルデア時空

    全ては夏の暑さのせい「アンデルセン、それでね……この浴衣どうかな?」
    「なんだ、俺に意見など求めずに、もっと色良い意見を出しそうな優男達のところにでも行けば良いだろう? 裾がめくれているぞ、似合う似合わない以前に身嗜みの問題だ。出直してこい」
    「えっ!」
     シミュレーター室の草原に座っている彼女が、慌てて浴衣の裾を直す。俺だからこれで済むものの、他のやつならどうなっていたか。カルデアのサーヴァント達はどいつもこいつも、野外なんて気にしないようなケダモノばかりだと知らないのか。……いや、ここはシミュレーター室なのだから実質屋内だが。

     この浴衣という衣服はマスターの故郷では夏祭りの日に着る服であるらしい。着物によく似ている。動きにくそうで戦闘にはとても向かない。着ている本人は現実の夏祭りにも行けない多忙な生活。
     こんな珍しい服を着て俺の部屋にやってきたこいつは、シミュレーターで再現された花火を一緒に見ようと誘ってきたのだ。もっと、マシュだの他の女達を誘えば良いだろうと言ったのだが、これが珍しく『どうしても』と食い下がる。俺みたいなやつとそんなものを見て楽しいのか、こいつは。
     だがまぁ、俺も花火というものには多少興味がある。何かしらのネタになるかもしれない。タイミングが良いことに脱稿したばかりで新しい仕事もない。全裸でカルデアを駆け回るよりもいくらか気晴らしになりそうだ。そう思ったから気まぐれに付き合ってやることにした。
     ……しかし人数が多くなると煩くてやっかいだ。聞けば声をかけたのは俺が最初だと言うから、さっさと2人で花火を見て満足したら、それで終わらせろと提案した。それでもまぁ、喧しく騒ぐのが好きなこいつのことだから、みんなで見たいと文句を言うと思ったのだ。

    「うん、じゃあ……二人だけで見ようか」
     これが一般的には、そうだ、二人だけでなどと念を押して外出に誘うことは。数少ない経験値でも容易に検索結果に出るだろう言葉ーー『デート』という言葉が該当するのではないだろうか。俺に返答する彼女の表情を見て、そう思い当たる。そんな妙な勘違いをさせても、困るだろう。

    「どうせただの暇つぶしなんだ、大人数でこなすようなイベントでもない」
    「……うん」
    「そもそも俺は人が多いのはあまり好まない」
    「そうだね」
    「それに……」

     この少女の服は露出度が低い。と思いきや後頭部からうなじにかけて、妙に襟部分があいている。首元の防御力が低い。それに袖……随分長い着物にも似た袖もざっくりと大きく作られているのだ。こいつがはしゃいで腕をあげたり振り回したりすると、普段の比ではないほどに腕を晒すことになる。どうも、あまり大人数に晒すべき格好では、ないような。

    「はぁ。ここは品評会じゃないんだ、細かいことはまぁいいだろう。とにかくさっさとシミュレーター室に行くぞ」
    「うん!」
     いつもよりも機嫌良さそうに隣を歩く彼女に、何を浮かれているのかと訊ねてやろうか。……いや、こいつは結局花火が見られれば何でも良いのだろうから、聞いたところで何になる。

     それで、シミュレーター室の草原に座り込むや否やあのセリフだ。浴衣がどうか? そんなもの、もっと条件反射のように『可愛い』という単語を連発する女どもに聞いて練り歩けば良いだろう。いくらでも望んだ褒め言葉が手に入るはずだ。あるいは、もっと。『花火、綺麗だね。でも君のほうが……』なんて台詞を真顔で吐く男にでも頼めば良い。俺には想像するだけで鳥肌もののお決まりのセリフだ。おぞましい。

     俺からの感想を引き出せなかった彼女が、ふてくされて足元の雑草を引き抜いている。俺からの言葉なんて、一銭の価値もないのだ。そこまで不機嫌になることでもないというのに。

    「……ランスロットはきっとこの浴衣姿は花火よりも美しいって言ってくれたよ。花火を見てなくても分かるって」
    「そうか、それは良かったな」
     もう他人に褒められた後なのに、まだ満足しないのか。というよりも。……その格好を他の奴らに見せた後に俺のところに来たのか。花火に誘ったのは、俺が最初だと言ったくせに……あぁ、先に誘った奴らには断られたのか。そんな不名誉なことをわざわざ俺には伝えないだろうな。
     浴衣姿を見たのも自分だけだと思っていたのだ。別に、こいつが誰に浴衣を見られようが、花火に誘おうが構わないが。好きにすれば良い。
     それにしても、こいつは人から褒められることを強くせがむような体質ではないと思っていた。自分は自分で、他人は他人。割とさっぱりした考えを持っているのだと。
     ところが、今日は妙にそれにこだわる。いつもと違う服で、いつもと違う場所で、仮にも男と二人きり。そんな風に態度を変えればどこの男も勘違いするだろう、俺はしないが。分かっていないのか? 

     花火の音が鳴り響くシミュレーター室は、夜という設定で暗くしていたのに花火が上がるたび昼間のように明るくなる。さっきまで不機嫌そうにしていたくせして、今は花火に夢中ですっかりこちらなど見ていない、隣の女の顔がはっきり見える。
     人間の顔は、強い光で明るく照らされると肌のくすみひとつなく、白く綺麗に見えるそうだ。……何のことはない。アレと同じだ。スーパーの蛍光灯の下にある魚ほどなぜか新鮮に輝いて見えるのと同じ。家に帰れば、別に輝いてなどいないのだ。だから、そうだ。それがよく見えるのだとしたら。
     全ては強い、光のせいだ。

    「だいたい本物の花火でもない、安っぽいシミュレーションの光と……お前を比較しろというのか」
     比べるほどのレベルではないものを一々隣に並べはしないだろう。花火よりも美しいだと⁉︎ 馬鹿馬鹿しい、そんなもの、今更比べるまでもないだろうが!
    「何? 花火の音でよく聞こえないよ! もっとおっきな声で喋って!」
     一々どうでもよいことを、再演するつもりはない。音量を上げて声を発する。
    「つまり。何にでも引き立て役というものはあるからな! セット販売というやつだ」
     眩い光に照らされた方が良く見えるのなら、そのようにすれば良い。比べるようなものではない、セットなのだから。引き立て役で主役が美しく見えるのなら、それは引き立て役の功績かもだ。
    「え、セット販売? 何が?」
    「ーー今日の花火は随分、かつてないほど可憐だと言っているんだ」
    「可憐……? そんなに花火、気に入ったの? アンデルセンが何かをそんなに褒めるところ、初めて見たかも」
    「正当な価値があるものには、正当な評価をする。当然のことだ」
    「ふーん……ねぇ、気に入ったなら、また今度、もう一回見ようか?」
     鳴り止まない花火の光の中で、嬉しそうな彼女が大きな声で提案する。

    「気が向いたらな」
     もう一度、そんな機会があるのなら付き合ってやっても良い。都合が合って、俺の気分が乗っている時なら。またお前がその服を着て、騒ぐ連中を呼ばずに、二人でやるというのなら。 ……今度は他の連中に目もくれず、真っ先に俺を訪ねるというのなら。

     そんな役にも立たない考えを振り切って、マスターの様子を伺う。口をぽかんと開けた阿呆面で花火を見続けているものだから、わざわざ俺を誘った意味があるのかどうか。何を話すわけでもなく、隣でただ花火を見る。
     誰だ、これが俗に言うデートに属するものかもしれないなんて考えたやつは。結局彼女にとってはただの暇つぶし、レジャーの一種だ。

     一夏の擬似花火が終わるまで、俺は擬似的な恋人すらなれやしない。振り切ったはずの考えに結局悩まされながら、あまりにも短いただのレジャーの時間を過ごす。
     ーー休暇は、長ければ長いほど良い。この休息が少しでも長く続くようにと浅はかなことを思いながら、俺はただ強い光で照らされる女の顔を眺めていた。
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