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    たまごやき@推し活

    アンぐだ♀と童話作家アンデルセンのこと考える推し活アカウント

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    現パロアンぐだ♀、同棲生活

    2020.8

    ##FGO
    ##アンぐだ
    ##現パロ
    ##同棲

    彼女の機嫌の直し方「ちゃんと名前書いておいたでしょ? どうして、勝手に、食べちゃうの……!」
     
     地球に隕石が落ちて人類滅亡ーー我が家ではそれに等しい事態の発生。よりにもよって、立香のお気に入りに手をつけてしまうとは。
     
     脱稿直後の記憶などもう曖昧なものだ。全て絞り尽くした後の体力でよろけながら冷蔵庫に向かい、テキトウにたくさん作られていた麦茶を引っ張り出して、コップにも注がず直飲みした。そうだ、それで済ませておけば良いものを、糖分の足りない頭でほしいままに冷蔵庫の奥まで手を伸ばしたのだ。

     プラスチックのカップではなくガラスの特注瓶に入ったプリン。
     ……最初は家に二つあったのだが、脱稿する前の山場を乗り越えるために俺の分はすでに食べてしまった。残りは、彼女の分だったのだ。朝っぱらから並んでも買えるのかどうか分からないレアもの。購入は一回にお一人様、ニ個まで。実力のあるパティシエやらによって作られたもの。早起きの苦手な彼女が眠い目を擦って買いに行った(らしい。実際は寝ていたので見ていない)代物だ。
     プリンが一個に減ってから、ガラス瓶に油性ペンでこれでもかというほどデカい文字で書かれた印。

    (りつかのプリン!)

     怨念すら感じるそれに、一体どんな阿呆が手を出すというのだか。そう思っていたのが大分昔のことに思える。

    「俺が悪かった」
     人の楽しみを奪ったのだ。脱稿後に調整してページを増やせと言ってくる担当くらいに許し難い。
    「アンデルセンが謝っても、プリンは返ってこないよね?」
     まずいな、今回は本当に、本格的に怒っている。謝罪で済めば警察などいらない。
     基本的にあまり怒ることのない彼女は、俺が麦茶を直飲みしようと、風呂上がりにドライヤーをかけながらそのまま寝落ちしようと……仕事で構ってやれなかろうと、こんな風に怒ったりはしない。謝罪すれば「ホントにアンデルセンは仕方ないんだから!」なんて言いながら俺の体調を心配したりしているような女なのだ。
     思い返せば俺たちは、まともに喧嘩をしたことがなかった。それでもこの時はまだ、謝り続けてほとぼりが冷めれば許してもらえるだろうという気持ちがどこかにあったのだ。

    「わたし、今日はこっちで寝るから」
     こちらの返答を聞く間もなく、ピシャリと寝室のドアを閉めたのは序の口だった。俺がシャワーを浴びている間に旅行のように荷物をまとめて、どうやら居間で暮らせるくらいの準備を整えてしまったらしい。
     居間のテレビの横には立香の大きなスーツケースが鎮座している。一度だけ二人で行った旅行の時に彼女が使っていたもの。となると十日分くらいの荷物を持ち出しているということだ。

     人が一人減ったダブルベッドは異様に広い。とりつく島もないような、あんな態度には衝撃を受けてしまった。遠くへ行ったわけではない。扉の向こうには彼女がいるのだ、謝りに行けばいい。だと言うのに、また彼女があの冷たい目でこちらを見るかと思うと扉を開けない。
     俺は、彼女の機嫌の取り方を何一つ知らないのだ。……そう気がついてしまった。

     どうにか眠れない身体を無理やり休ませた翌朝……いやもう昼と言うべきか、ともかく起きた頃には彼女はもう仕事に出かけていた。普段であれば、出かける前に声をかけてもらえているはずだ。まぁ、いつも声をかけられても俺は起きないのだから今日はどうだったのか分からない。だが、恐らく昨日のあの様子では俺に声などかけずに出かけたのだろう。

     何とかしなくては。このままではとてもここでは生活していけない。やはりここは、謝っても戻ってこないプリンを今一度購入した上で謝罪するしかないだろう。明日にでも早急に手に入れなければ。
     怒りの最中にある本人にはとてもプリンのことを聞けない。仕方なく、ゴミ箱を漁ってプリンの痕跡を確認する。ドブネズミの方がいくらかマシな状況だ。
     プリンについていたラベルをどうにか発見して、情報を集める。ここからは電車で五駅……店は朝、七時からだと!? 洋菓子屋が何をそんな早朝から働くんだ! せめて、あと三時間遅ければ何とかなったかもしれないというのに。
    「始発の電車に乗れたなら、間に合うか?」
     始発の電車に乗る人間は何時に起きているんだ。普段だって起きられないのだ……しかし背に腹は変えられない。確実に手に入れるには、徹夜という選択肢しかあるまい。

     そんな風に意気込む最中、申し訳なさそうな声でマシュが俺に電話を寄越してきた。遊びに来た先輩と話が盛り上がっていて、今日はこのまま先輩を私の家に泊めたい。ーー要約するに、立香は俺がいるこの家に帰りたくない、とのことだ。立香は明日、仕事が休みだった。大した約束もしていないが俺も脱稿直後で……本当ならどこかへ一緒に出かけようかと、提案するつもりだった。
     結局俺はさんざん立香にやめろと言われたエナジードリンクを数本空にして、脱稿しているにもかかわらず書斎に篭って一夜を明かしたのだった。

     翌朝、一睡もしなかった脳内は正常な思考ではなく、ただ俺はプリンを買うという目的を果たすためだけに動き始める。電車に乗り、五駅。駅の近くの小さな店に辿り着く。

    「何だ、この人だかりは」
     始発でここに来たというのに、すでに恐ろしいほどの人の列。最後尾にいる店員が、カードを下げている。
    (本日のプリンは、完売しました、だと!?)
     一体どういうことだ。こいつらはまさか深夜から並んでいるんじゃないだろうな? とはいえ、ないものはないのだ。ここで店員にごねるほど、世間知らずでもない。
     無駄に交通費を使い、ただただ何も得ずに帰るのか。しばらく店の様子を伺っていると、どうやら並んでいるのはプリンを買う者だけで、他の買い物をしている客は自由に出入りしているようだ。出入りする客が持っているのは、卵だったり、牛乳だったり。

    「…………」
     昔の貴人はこう言った、らしい。パンがなければお菓子を食べれば良いのに。本当に言ったかどうかは本人に聞いてほしい。まぁ、パンを菓子にするよりは合理的な方法。
     すなわち『プリンが買えないのなら、作ればいい』。ーー後から思ったが、この時は徹夜明けで俺もどうかしていたのだ。

     俺は湯を沸かすくらいしか、キッチンを使わない。調味料はどこか……目につくところにあるから俺でもそれはわかる。では、調理器具は? あいつも案外片付けのできる方だ、引き出しを探ればすぐに見つかった。今は良い時代だ。プリンのレシピくらいなら、俺にもすぐに見つけられる。
    「バニラビーンズ……? そんなものスーパーにはなかったぞ。クソ、こいつどこで材料を調達しているんだ」
    「適量ではなくグラムかさじで表記をしろ、何なんだこの適当加減は。本当にプリンを作らせる気があるのか?」

     レシピはたくさん見つかれど、精査していけば作りたいものにはなかなかたどり着かない。そこではたと気がつく。どう考えても、いくら材料が良かろうと腕は三流なのだから立香の満足するプリンが生み出せるわけではない。やはり、明日出直した方が良いのではないだろうか。……そもそも、今日はこの家に帰ってくるのか? 帰ってこないのなら、俺はまたカップラーメンを引っ張り出してこなくてはならない。
     結局、一応は用意した材料で試作をするために失敗のなさそうなものを選ぶことにした。よく扱いのわからない蒸し器やオーブンはだめだ。その点、電子レンジならば俺にも問題なく扱える。

     それから、ニ時間後。
    「何が、初心者でも失敗なし☆だ!」
     ああいった科白を信用してはならない。初心者向けだの言っておいて、目の前にはまともなプリンなど存在しない。配分を間違えたのか、手順を間違えたのか……レシピ通りにやったはずなのだが。
     ガラスの器の中には未だに固まらないさらさらの黄色い液体。カラメルを手作りしようだの書いてあったが、液にはならずにフライパンに貼り付き焦げただけの砂糖の塊。これは飲むプリンだの言って、どうにかならないものか。本当にこれではあまり美味くはないが、どころではない。プリンの形状すらなさないこれをあいつにだして許しを乞うわけにもいかないのだ。

    「それにしても……」
     こんな洋菓子一つ、満足に作れないままこんなにも時間がかかるのか。あいつは一時間もあれば夕飯を作れるというのに。
     キッチンは菓子を一つ作ろうとしただけでボウルだのヘラだのが散在している。フライパンの焦げ付きはどうにかなるのか? これを、今から洗って片付ける虚無感。……立香は、ちゃんと帰ってくるだろうか。唐突にあいつの作った夕飯が食べたくなる。今日も、俺はあの広いベッドで眠るのか。
     ……帰ってきてほしいと、連絡を入れたらどうだろうか。いや、メッセージに既読がつかないかもしれないな。

     その時、玄関の方から鍵を開ける音がした。まずいな、帰ってきてほしいとは思ったが……彼女の望んだプリンを用意できるわけでもなく、キッチンはこの惨状の中だなんて。どうする、とりあえずはこの洗い物をどうにかするか? それともこのプリンになりきらなかった廃棄物をどうにか……。しかし無情にも今のドアは開いてしまう。
    「ただいま」
    「……おかえり」
     散らかったキッチンをごまかしきれないまま、帰ってきた彼女を迎える。

    「? アンデルセン、何か作ってるの?」
    「これは何でも、」
     隠す間もなく、手元を覗き込まれる。
    「……これ、もしかしてプリン?」
    「はぁ。固まってなければプリンじゃないだろう」
     菓子作りなんてするんじゃなかった。怒っている彼女にこんな様を見せては、火に油を注ぐだけじゃないか。
    「アンデルセンがカップ麺以外のもの作ってるの、初めて見た……」
    「そりゃあそうだろう! 人には向き不向きがあるんだ」
    「ふふ、アンデルセンがエプロンと三角巾つけてキッチンにいるなんて」
     ツボに入ったのか何なのか、肩を震わせて笑い続ける。準備は充分ではないが、謝るのなら今しかない。
    「立香……俺が食べたプリンのことなんだが、」
    「……もう、ホントにアンデルセンは仕方ないんだから! もう一回プリンを作ってくれたら、許してあげる」
    「!」 
     ようやく屈託のない笑顔をこちらに向けている彼女の姿を見て、ホッと胸を撫で下ろす。
    「それは構わないが……まともに完成するかどうかは保証しないぞ」
     ちゃんとレシピを読んで作ったはずなのだ。それでこの有様では、やり直したところでどうなのか。
    「次はわたしも一緒に作るから、大丈夫だよ」
    「ん……」
     
     かくして、休日の昼日中から再びキッチンで忙しなく菓子作りを始める。ーー今度は二人で。
     まともな菓子が完成したのなら、ゆっくり休憩を取ろう。休暇はまだ始まったばかりなのだから。
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