Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    たまごやき@推し活

    アンぐだ♀と童話作家アンデルセンのこと考える推し活アカウント

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 162

    カルデアアンぐだ♀

    2020.9

    ##FGO
    ##アンぐだ
    ##カルデア時空

    小夜啼鳥のラヴソング キャスター。単純に言えば魔術を使用できる者のことだ。しかし、純粋な魔術師ではない「作家」となれば、それは少々勝手が違ってくる。

     創作物は作者の心を表すものーーそれは作品を読んだ読者達の言い分。確かに実体験を作品作りのきっかけ、あるいは話の柱に利用することはあるだろう。だが、己の作品と心は似て非なるもの。
     ……そうだ。己の魔術が作品を元にしたものだとしても、決して己の心を表すものだとは限らないだろう。


     このカルデアにも段々とまともな戦闘狂のサーヴァントが揃ってきた。しかし、俺もようやくお役御免かと思われた頃、マスターが俺に尋ねてきたのだ。「魔力の球を打ち出す以外にも攻撃方法はないのか」、と。

    「俺のようなものにも執筆ではなく戦闘を望むのか、マスター。円卓の騎士達が聞いたらさぞ嘆くことだろう。過度の強欲は身を滅ぼすぞ?」
    「だって、アンデルセンの魔力は世界中の読者から供給されているようなものでしょう? その、身体に影響が出るほど力が強いなら……サポート以外にも普段の攻撃に使ったら火力が出るかなって」
     
     喉を焼くような痛み、火傷や凍傷、さらには鱗と様々な影響を与える呪い。つまるところ、それを逆に利用してやれと彼女は言っているのだ。

    「俺は戦闘員じゃない。それにあくまでも作家であって魔術師になったすら覚えはない!」
     第一、彼女が考えているようなことくらい、既に自分で考えたことがある。ーー実際に、彼女が言っているような『自分の物語を攻撃の手段にすること』は可能だ。

     この貧弱なカルデアでマスターの命を繋ぐためにはその手を使わなくてはならない。そう思うような危機が過去に何度かあった。戦力の揃わないカルデアで全員が休む暇もなく駆け回った懐かしい日々のことだ。
     しかし、だんだんと戦力が整い、心配はなくなった。そんな手段を取らなくとも、今や十分な戦力が揃ったのだ。

     物語を喚び出す。対象が自分のものであろうとも魔術師の召喚術に近い。対価は読者達の莫大な魔力で支払われるだろう。
     だが、喚び出したものが俺の思う通りに動くかどうかと言えば。散々己の身体に刻まれたものを見るに、何事にもデメリットは存在する。いささかその手段はリスキーだ。魔術など不慣れなこの身で喚び出し、形を与えたものが暴走したら? それがもし、マスターの害になるようなものであったのなら。
     まさか三流サーヴァントの魔術程度でそこまでの危機が起こるとは思っていない。だが、今や多様な選択肢のあるカルデアでわざわざそんな方法を取るのは……よほど緊急性の高い時だけだろう。

     しかしこれはフラグだったのか、俺の幸運が足りていないのか。
     特異点での戦闘中、カルデア自慢の戦闘狂達だけでは振り払えないような大量の敵の中で、マスターに手が届く位置にいたのは俺だけだった。
     令呪を使おうと手を振りかざしたマスターの命令は間に合わない。それを感じとった時には既に、その手を掴んで敵を避けさせていた。一度避けただけではどうにもならないほどの敵陣からの集中攻撃。ーー叩くなら、敵の頭と相場は決まっている。絶体絶命とはこういうものか、コーヒーの一杯もゆっくり飲めやしない。
     ……こうして、すぐにやってきた『緊急性の高い時』に、とうとう俺は物語を使役した攻撃を使うことになったのだ。

    「アンデルセン、具合はどう?」
     戦いの後魔力の枯渇で倒れた俺は、たまの休暇を得ることになった。自由になってしまうと存外暇を持て余してしまい自室で読書をしていると、あいつが様子を見にやってきた。

    「こんなもの、ただの過労だ。どうせ元から大した健康体でもない」
     初めて使用した攻撃方法に魔術師でもない身体がついていかない。それが問題なだけで、存外に物語の使役は簡単だった。初めての使役で特に暴走するでもなく、今起こっているデメリットも慣れれば解決するだろう。戦力が整ってきてはいるが、こうなれば使えるものは使った方がいい。

     小夜啼鳥、親指姫、果てはただ一本のマッチ。物語に所縁のあるものに魔力をのせて、攻撃に付加価値をつけるという方法だ。漠然とした魔力を打ち出すよりも攻撃の精度が上がる。物語としての形を取ることで、前よりも魔力が込めやすくなったのだろうか。その分消耗も激しいが、このくらいなら大した問題ではない。
     だがどうにも、この件に関しては嫌な予感がするのだ。こういう予感だけはすぐに当たる。

    「何かしてほしいことある? 何でも言ってね」
    「俺はサーヴァントだぞ。普通の病人とは違うんだ。……食堂にあったリンゴを剥いてくれ」
     どさくさに紛れてこれくらいの要望は許されるだろう。手元の本のページを進めながら、なんてことはないように注文してやれ。

    「分かった、リンゴね。そうだ、鳥の形に切ろうか? この間見たんだけど白鳥みたいな形で可愛くて……ん、何? ヤキモチやいてるの? 大丈夫、君も最高に可愛いよ」

     ……おかしい。今は部屋に二人きりのはずだ。これはまるで、この部屋にもう一人いるかのような会話じゃないか。
     突然聞こえる鳥の鳴き声と、マスターの話した内容からある程度の予測をしてしまう脳内。できるなら視界に入れたくない何かがそこにあるのは明白で。あぁ、それでも放置できるほど無責任にはなれないらしい。重い頭を動かしてマスターの方を向く。

     絵に描いたような鳥がマスターの手の上で寛いで撫でられている。頭をマスターの手に押しつけるようなその鳥の体勢は、完全に甘えているとしか言いようがない。
     どう足掻いても見覚えがあるそれは自分が使役した物語だ。攻撃に使役した後、消えたものと思っていた。

    「……そいつは一体いつからいるんだ」
    「あれ、アンデルセンが喚んだんじゃないの? 戦闘の後からわたしの側にいるよ。時々いなくなるけどすぐ戻ってくるし……」
     頭痛が再発したようだ。めまいもする。つまり、何だ? この鳥は俺が倒れてからマスターにべったりというわけか。

    「可愛いよね! なんだかわたし、懐かれてるみたいなの」
     他のサーヴァント達が撫でようとするとクチバシで攻撃するんだよ! 自慢げに彼女が言った。そいつはお前のペットじゃないぞ。
    「特に男の人は苦手みたいでね、近づいただけで威嚇してたよ。こう、羽根をバサバサして……」
    「お前、それは」

     それは、お前に男を近づけたくないだけだろう。そう言いそうになったのを、口を固く閉じて押さえつける。
     喧しくさえずり始めた鳥が彼女の肩にとまっている。
    「夜になるとよく鳴くんだよね。歌ってるみたいだと思わない?」
     目の前の鳥はあくまでも物語上の存在だ。リアリティのある動きをするとは限らない。そうだ、そうに違いない。それなのに勝手に脳内は思考を停止しない。

    (夜にさえずる小夜啼鳥……)
     鳥が鳴くのは何のためか。仲間への伝達、縄張りの宣言。ーーあるいは。

    「はぁ。もうリンゴはいい。少し寝ることにする」
    「あっごめん……まだ病み上がりだもんね。改めてだけど、いつも助けてくれてありがとう。ゆっくり休んでね」
     そう言って彼女はすぐに鳥を連れて部屋を出て行った。

     俺は一人になった部屋で、頭を抱える。
    「まったく……勘弁してくれ」
     俺のいない間に男を威嚇して、夜にさえずる鳥に周囲の人間がどんな感想を抱くか。物語やそれに連なる人格への批判など飽きるほどに聞いたが、今回の件はワケが違う。

     創作物は作者の心をあらわすのだ。そんな説があった。だが、敢えて注釈を入れよう。あれは俺の書いた物語そのものというよりは魔術のようなもので。そのため決して、作者の心をあらわすとは限らない。
     ……クソ、緊急事態だからと言って、デメリットだらけの手段に手を染めるんじゃなかった。

     マスターに擦り寄る鳥のさえずりの声が、まだ頭の中で響いているようだ。浅ましいことに脳内は、その鳥を慈しみ受け入れる彼女の姿まで明確に想像し始めて。……俺はそんな想像を振り切って、シーツの海の中に潜り込む。

     悪夢のような現実を、寝て夢見ることで消すことができれば良いが、生憎サーヴァントに夢を見ることは叶わない。ただひたすらに時間が嫌な記憶を忘れさせてくれるよう希望を持って睡眠を取る他なかった。

     ーーそれからしばらく後のこと。
     彼女に懐いているのは小夜啼鳥だけではないという事実が明らかになり、俺はさらに頭痛のする日々がスタートすることになるのだった。







      キャスター。単純に言えば魔術を使用できる者のことだ。しかし、純粋な魔術師ではない「作家」となれば、それは少々勝手が違ってくる。
     創作物は作者の心を表すものーーそれは作品を読んだ読者達の言い分。確かに実体験を作品作りのきっかけ、あるいは話の柱に利用することはあるだろう。だが、己の作品と魔術は似て非なるもの。

     ……そうだ。決して、己の魔術が己の心を表すものだとは限らないだろう。

     このカルデアにも段々とまともな戦闘狂のサーヴァントが揃ってきた。しかし、俺もようやくお役御免かと思われた頃、マスターが俺に尋ねてきたのだ。「魔力の球を打ち出す以外にも攻撃方法はないのか」、と。

    「俺のようなものにも執筆ではなく戦闘を望むのか? マスター。傲慢なやつだな」
    「だって、アンデルセンの魔力は世界中の読者から供給されているようなものでしょう? その、身体に影響が出るほど力が強いなら……サポート以外にも普段の攻撃に使ったら火力が出るかなって」
     
     喉を焼くような痛み、火傷や凍傷、さらには鱗と様々な影響を与える呪い。つまるところ、それを逆に利用してやれと彼女は言っているのだ。

    「俺は戦闘員じゃない。あくまでも作家であって魔術師になった覚えはない!」
     それに、彼女が考えているようなことくらい、既に考えたことがある。ーー実際に、彼女が言っているような『自分の物語を攻撃の手段にすること』は可能だ。

     この貧弱なカルデアでマスターの命を繋ぐためにはその手を使わなくてはならない。そう思うような危機が過去に何度かあった。戦力の揃わないカルデアで全員が休む暇もなく駆け回った日々のことだ。
     しかし、だんだんと戦力が整い、心配はなくなった。そんな手段を取らなくとも、今や十分な戦力が揃ったのだ。

     物語を喚び出す。対象が自分のものであろうとも魔術師の召喚術に近い。対価は読者達の莫大な魔力で支払われるだろう。
     だが、喚び出したものが俺の思う通りに動くかどうかと言えば。散々己の身体に刻まれたものを見るに、何事にもデメリットは存在する。いささかその手段はリスキーだ。魔術など不慣れなこの身で喚び出し、形を与えたものが暴走したら? それがもし、マスターの害になるようなものであったのなら。
     ……今や多様な選択肢のあるカルデアで、わざわざそんな方法を取るのは、よほど緊急性の高い時だろう。

     しかしこれはフラグだったのか、俺の幸運が足りていないのか……すぐにやってきた『緊急性の高い時』に、とうとう俺は物語を使役した攻撃を使うことになったのだ。

    「アンデルセン、具合はどう?」
     戦いの後魔力の枯渇で倒れた俺は、たまの休暇を得ることになった。自由になってしまうと存外暇を持て余し自室で読書をしていると、あいつが様子を見にやってきた。

    「こんなもの、ただの過労だ。どうせ元から大した健康体でもない」
     初めて使用した攻撃方法に魔術師でもない身体がついていかない。それが問題なだけで、存外に物語の使役は簡単だった。初めての使役で特に暴走するでもなく、今起こっているデメリットも慣れれば解決するだろう。戦力が整ってきてはいるが、こうなれば使えるものは使った方がいい。

     小夜啼鳥、親指姫、果てはただ1本のマッチ。物語に所縁のあるものに魔力をのせて、攻撃に付加価値をつけるという方法だ。漠然とした魔力を打ち出すよりも攻撃の精度が上がる。物語としての形を取ることで、前よりも魔力が込めやすくなったのだろうか。その分消耗も激しいが、このくらいなら大した問題ではない。
     しかしどうにも、この件に関しては嫌な予感がするのだ。

    「何かしてほしいことある? 何でも言ってね」
    「俺はサーヴァントだぞ。普通の病人とは違うんだ。……食堂にあったリンゴを剥いてくれ」
     どさくさに紛れてこれくらいの要望は許されるだろう。手元の本のページを進めながら、なんてことはないように注文してやれ。

    「分かった、リンゴね。そうだ、鳥の形に切ろうか? この間見たんだけど白鳥みたいな形で可愛くて……ん、何? ヤキモチやいてるの? 大丈夫だよ、君も最高に可愛いよ」

     ……おかしい。今は部屋に2人きりのはずだ。これはまるで、この部屋にもう1人いるかのような会話じゃないか。
     突然聞こえる鳥の鳴き声と、マスターの話した内容からある程度の予測をしてしまう脳内。できるなら視界に入れたくない何かがそこにあるのは明白で。あぁ、それでも放置できるほど無責任にはなれないらしい。重い頭を動かしてマスターの方を向く。

     絵に描いたような鳥がマスターの手の上で寛いで撫でられている。頭をマスターの手に押しつけるようなその鳥の体勢は、完全に甘えているとしか言いようがない。
     どう足掻いても見覚えがあるそれは自分が使役した物語だ。攻撃に使役した後、消えたものと思っていた。

    「……そいつは一体いつからいるんだ」
    「あれ、アンデルセンが喚んだんじゃないの? 戦闘の後から私の側にいるよ。時々いなくなるけどすぐ戻ってくるし……」
     頭痛が再発したようだ。めまいもする。つまり、この鳥は俺が倒れてからマスターにべったりというわけか。

    「可愛いよね! なんだか私、懐かれてるみたいなの」
     他のサーヴァント達が撫でようとするとクチバシで攻撃するんだよ! 自慢げに彼女が言った。そいつはお前のペットじゃないぞ。
    「特に男の人は苦手みたいでね、近づいただけで威嚇してたよ。こう、羽根をバサバサして……」
    「お前、それは」

     それは、お前に男を近づけたくないだけだろう。そう口が滑りそうになって、口を噤む。
     喧しくさえずり始めた鳥が彼女の肩にとまっている。
    「なんか、夜になるとよく鳴くんだよね」
     あくまでも物語上の存在だ。リアリティのある動きをするとは限らない。それなのに勝手に脳内は思考を停止しない。

    (夜にさえずる小夜啼鳥……)
     鳥が鳴くのは何のためか。仲間への伝達、縄張りの宣言。ーーあるいは。

    「はぁ。もうリンゴはいい。少し寝ることにする」
    「あっごめん……まだ病み上がりだし疲れてるよね。ゆっくり休んでね」
     そう言って彼女はすぐに鳥を連れて部屋を出て行った。

     俺は1人になった部屋で、頭を抱える。
    「まったく……勘弁してくれ」
     俺のいない間に男を威嚇して、夜にさえずる鳥に周囲の人間がどんな感想を抱くか。物語やそれに連なる人格への批判など飽きるほどに聞いたが、今回の件はワケが違う。

     創作物は作者の心をあらわすのだ。そんな説があった。だが、あれは俺の書いた物語そのものというよりは魔術のようなもので。決して、作者の心をあらわすとは限らない。
     ……緊急事態だからと言って、デメリットだらけの手段に手を染めるんじゃなかった。

     マスターに擦り寄る鳥のさえずりの声が、まだ頭の中で響いているようだ。浅ましいことに俺の脳内は、その鳥を慈しむ彼女の姿まで明確に想像し始めて。……そんな想像を振り切って、シーツの海の中に潜り込む。

     悪夢のような現実を、寝て夢見ることで消すことができれば良いが、生憎サーヴァントに夢を見ることは叶わない。ただひたすらに睡眠が嫌な記憶を忘れさせてくれるよう希望を持って睡眠を取る他なかった。

     ーーそれからしばらく後のこと。
     彼女に懐いているのは小夜啼鳥だけではないという事実が明らかになり、俺はさらに頭痛のする日々がスタートすることになるのだった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works