独白 極道をしている憎たらしい犬が居る。
その犬は飯綱という名前で、組長には大層愛想が良いが、僕には何かと因縁をつけては絡んでくる。嫌なら関わらなければ良いのに、それをせずに毎度僕を見つけては睨みをきかせて噛みついてくる理由が分からない。
駄犬は駄犬らしく、親分さんの足元で鼻を鳴らしていればまだ可愛げがあるというのに……。
くだらない。
こうやってあの犬の事を考えるのは酷く不毛だ。不毛なのに考えるのを止められない。
あの犬が僕を見つけてほんの僅かに上がる眉と口角、口論の末に言い負かされた時の悔しそうな顔や声、無遠慮でがさつな手が僕に触れた時の熱と感触、そのどれもを今感じた事のように記憶していて、そのどれもが僕の心を揺さぶるのが、いっそ憎たらしくて仕方ない。
憎たらしくて仕方ないのに、手を伸ばして袖を引きたくなる。袖を引いた後は、首輪をつけて足元に置いて何処にも行けなくしてやりたい。
そんな事できやしないと分かってる。分かっているけど、この気持ちが止められない……。
憎たらしい。憎たらしくて、心の底から愛おしい。