ROUND5の後にミジを喪ったティルの憔悴はひどいものだった。
エイリアンステージでの敗北が死をしめすのだと知っていた。しかし『死』とはなんなのか。ティルは理解していなかったのだと思う。ミジがROUND1以降人が変わったように神経質になり、些細なことに激高し、ティルの粗暴のふるまいをきつく諫めていたのは何故だったのか、理解せずにティルは過ごしてきてしまったのだ。
最初のROUNDで敗けた相手が撃たれて倒れるのを、赤い液体を流した体がやがてかたく冷たくなっていくのを、ティルはステージを終えた高揚に任せて深く捉えることがなかった。
自暴自棄になり世界人に歯向かいきつく躾を受ける。その繰り返しだった。
その日も同じだった。イヴァンがバックヤードにあるペット用の部屋を訪れると、ティルが床に転がっていた。手酷く扱われ部屋へと引きずって行かれる間も意識が戻らなかったようで未だ瞼はきつく閉じられていた。
イヴァンは床に膝をついてうやうやしく上体を倒す。ティルの頬ににじんだ血を舐めとり、幾度も額に口づけた。
「………」
柔らかい触れ合いと人の温度に反応し、意識が戻らないティルの唇が紡いだ言葉を聞き取れなかったのは、イヴァンにとって幸いだったのかもしれない。
「僕の名前だったらな……嬉しいのに」
ティルの破れた服を撫であげ露わになった肌に触れる。ティルの白い肌にはそこかしこに赤い擦り傷や赤黒く変色し始めた鬱血がちりばめられている。本日店を訪れていた世界人の顧客リストを脳裏で検索する。誰がここを殴打したのか、誰がそこを蹴りつけたのか、イヴァンは記憶をたどりながら傷のひとつひとつに口づけを落とす。表情を変えないままの行為のなか、傷が擦れて圧されるごとにティルが苦し気な息を吐く。
やがて、ティルが痛みによって意識を取り戻す気配があった。名残惜し気にイヴァンは身を起こす。そこで初めてイヴァンの表情が変わる。いつもの柔和な人好きのする笑顔に。
「大丈夫かい、ティル」
さもたった今ここに来た風に、執着をもって傷を確かめていたことなどきれいに隠して。
「……イヴァン、どうして、ここに」
「君が心配になって、さあ手当をしよう」
痛みを引きずるティルのかすれた声に、優しくイヴァンは応じ、最期までその想いを気取られないように、注意深くイヴァンはティルの傷に触れる。