口は大災害の元。「そういやザガン、最近はあのエルフとどうよ?」
「無表情で家事をしていても声をかけると嬉しそうに返事をしてくれたり、城に帰ればどんなときでも出迎えてくれる所に毎回感謝している」
ーー想像の10倍は濃厚な惚気帰ってきやがった…
全く持って大した意味も興味も無かったというのに。酒場の一席にて、久しぶりに悪友と酒を煽っていたバルバロスは、自分の失言を深く後悔した。
「この前など、俺が本で見ただけの遠方の地の菓子を、わざわざ再現してくれてな。何気なく洩らしただけだというのに本当に察しが良いというか良すぎて泣きそうというか」
「いやうん。いいよもう分かったからお幸せに」
「あと最近はよく素直に膝に乗ってくれるんだが、頭を撫でると耳が微かに揺れるのが小動物のようで愛らしい」
「いいっつってんだろ話し続けんな!もう俺帰る…ってひいっ!?おいローブ掴んでくるな…いやなんでお前そんなアンデッドみたいな顔してんのっ?やめろ離せ!!」
ゾンビのような仕草のザガンは、子供どころか大人も聖騎士も泣いて逃げ出す形相だった。ただでさえ悪い目つきが完全に据わっているせいで、下手をすればアンデッドよりもよほど恐ろしい。
「貴様が聞いてきたんだ責任を持って最後まで聞け。もう城の壁が足りないのだ」
「壁を何に消費してんのっ?」
「この感情の行き場を毎度毎度模索した結果そこに行き着く」
「感情発散に殴ってるっつーことかよ!?そりゃ魔王の力で殴り続けてりゃ壊れるだろうな!?つーかちょっと待て!その流れだと俺が代わりに殴られるっつーことにならねえっ?」
「お前なら粉砕しても何も問題は無い」
「何一つ問題ない要素がねえんだけどっ?」
ステータスを“力”に全振りした〈魔王〉の握力は、バルバロスを逃がしてはくれない。
正直いま掴まれているローブを犠牲にしてでも逃げたい所だが、無理だ。絶対に無理だ。この酒が入ったせいでリミッターの飛んだ愛を拗らせた化け物からは、空間跳躍の力を持ってしても逃げ切れる気がしない。
「あー!あーホラ!その、あれだ!俺は今日ちょっと忙しいっつーか今から協会に行くから!ポンコツに用があるからこれで…」
「ふむ。ならシャスティルも連れてくると良い。俺は一向に構わん」
「構わんじゃねえよっ?より状況を地獄にしてどうすんだ!」
何が悲しくて護衛対象の少女と共に悪友の惚気話なんぞ聞かなければならないのか。
…いやもしかすると、ザガンとその嫁の仲を気にかけているあの少女なら、どんな形であれ、二人の進展に自分が協力できることを喜ぶかもしれないが…いやでも駄目だ。それはそれとしてその状況には耐えられない。自分が。
「…くそ、分かったよ。聞いてやっから…でもその分何かしら報酬は寄越せよ!こんなもん俺に何一つ得がねえじゃねえか」
「よし。報酬は検討しておこう。それでは場所を変えるぞ」
「場所変えんのっ?わざわざ?やめろ引きずるんじゃねえ首が!首が締まる!」
バルバロスのローブのフードをひっ掴んでひきずりながら、ザガンは酒場を出て行った。勿論会計はちゃんとカウンターに置いて。
ーー結局、魔王の惚気は一晩では収まらず、翌日の昼間まで持ち越したのであった。