紬を抱きたくない丞の話 昔から、妙なところで思い切りが良いのは紬の方だった。
改めて思い知らされた気がして、丞は眉間に皺を寄せ目を逸らした。慎重に言葉を選ぶ。返事を間違えば、丞の望まない方向へ流されてしまうだろう。つまり、紬の思い通りに。
考えて、考えて、考えがまとまる前に口が動いた。
「だめだ」
紬の視線が頬に突き刺さる。部屋の空気が一段と重くなった気がして、丞は息を詰めた。
本当なら、紬の願いは叶えてやりたい。丞の手の届く範囲のことならば。だけどこればかりは。
寮の二人部屋には丞が持ち込んだ黒い革張りのソファがあったが、ふたりして床に座り込んでいた。一度落ち着いて座り直そうと言う隙もなかったし、そういう雰囲気でもなかったのだ。
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