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    翠蘭(創作の方)

    @05141997_shion
    一次創作/企画/TRPG自陣&探索者のぽいぴく
    一次創作の設定等はべったーに

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    翠蘭(創作の方)

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    告白してすぐ後の頃の話
    恋歌さん宅黒田賢一さんをお借りしています

     その後ろ姿に、いつものように話しかけようとして、足が止まった。
     彼は黒田さん。刀遣いの先輩で段位は三段、普段からなんだか軽薄で、妙に自己肯定感が低くて、どうしてそんなにご自分を卑下するんだろうと、私が歯痒い気持ちになる。こんな私に飽きもせず声をかけてくれるような優しい人なのに。でも友達はあまり、というかほぼいないみたいだ。私の頭を撫でる手はいつだって優しくて、稀に覗く笑顔は柔らかい。刀を扱う姿はとても格好良く、その努力の証はしっかり手に現れている、まさに剣士。
     ただ、ご自家の考え方──自己犠牲によって命を擲ち、死して英雄になる事が至上である──に肯定的、いや、盲信的だったから、その家訓に従い英雄になるために死に急ぎ、それが理由で自己犠牲の多い戦い方をするので、怪我が耐えない。なのに、普段は戦場を避けてナンパをしているし任務もサボりがちで、なんだかちぐはぐな人だった。
     そんな黒田さんと先日、詳細は省くけれど、恋人になって、キスをした。
     私たちはどうやら、お互いに惹かれ合っていたみたいで、気持ちを確かめた上で、キスをする運びになったのだ。
     そう、キスを。
    「…………っ」
    「主? どうかしたのかい?」
     傍らを漂う私の刀神バディである紛津日まがつひが不思議そうにこちらを見ている。私はこの妖刀に交際の件を一切伝えていないので、どう反応すべきか少し悩んでいると、サイカ──私は言霊を信じているので、彼の神と同音である紛津日の名前をみだりに呼びたくないため、異能の名前から一部を取り『サイカ』と呼んでいる──がどうやら黒田さんに気がついたようで、
    「おや、彼がいるじゃぁないか。やぁ君」
     黒田さんに声をかけていくけれど、私はその場から動けなかった。二人で何かを話している、黒田さんの唇にばかり目が行ってしまって、あの時みたいに速く脈打つせいで、耳に直接心臓が出来たんじゃないかと思うほどバクバクという音がするから、内容が入ってこない。おかしい、昨日は普通に話していたのに。距離が一段と近くなったし、スキンシップが増えたなとは思っていたけれど、ちゃんと会話できていたのに、どうして。
     そもそも私は昨日まで、どんな風に黒田さんと会話していたんだっけ。
    「やぁレディ、こんにちは。ボーッとしてどうしたの?」
    「こ、んにちは」
     いつの間にか黒田さんが目の前にいた。頭が真っ白になって、上手く言葉が出てこない。し、心臓が持たない。
    「わっ、わ、私、今日は用事が、ある、ので。思い出したので、失礼します」
     踵を返し、露骨に不振な行動を取ってしまったと思ったけれど、そのまま走り出す。
     後ろの方から
    「君、主が嫌がるようなことした?」
    「いや……」
     と、首を傾げているであろう会話が聞こえた。

               ×

     暫く、そうやって避け続けたり、避けなかったとしてもよそよそしくしてしまったから、今日は避ける前に捕まってしまった。
    「最近どうしたの? もしかして俺、嫌なことしたかな、なおちゃん」
    「ち、違います」
     なんだか悲しそうな顔をしてこちらを見る黒田さんを、少しだけ可愛いと思ってしまって、そんなことを思っている場合ではないし、ちゃんと話さなければと反省した。
    「あの、私、その、……急に黒田さんとキスしたことを、思い出して。キスしたんだなって意識したら、なんだか、今までってどうやって会話してたのかわからなくなってしまって、だから、……ごめんなさい、避けたりして。どこにも行かないって約束したのに」
     話しながら徐々に下がっていた視線を上げる。黒田さんは怒るでもなく「そっか」と笑っていた。
    「お、怒りませんか?」
    「怒らないよ。俺の彼女は可愛いなぁって思っただけ」
     どこに可愛いの要素があったかはわかりかねるけれど、少し安心した。
    「でも俺は、君とたくさん触れ合いたいし、もっと一緒にいたいと思っているから、ゆっくり慣れていってほしい」
    「私もです。避けていたのは私ですけど、……黒田さんに会わないと、胸のあたりが冷たくて、本当は、毎日会いたかったし、お話ももっと……、どうしたんですか顔を覆って」
    「いや、本当に君は素直だなって」
    「そう、ですかね」
    「そうだとも。……今は冷たくない?」
    「冷たくないですよ、触りますか?」
     えっという顔をする黒田さんを余所に、右手を取る。今日も熱くて、マメのたくさんある素敵な手だ。その手を、そっと私の左胸に宛がう。じんわりと暖かさが広がって、穏やかな気持ちになる。
    「……君の恥ずかしがるところがわからないな」
     そんな呟きに気がつかないまま、私は黒田さんの手を胸から離して、自分の左手と握り直す。彼がくれた指輪がキラリと光った。
     じぃっと目を見つめているうちに、無性に好きだと言いたくなって、数日遠ざけていた分とても触れたくなってしまって

    「好きですよ、賢一さん」

     そのまま、彼の唇に軽く口づけた。
     なんだか凄く大胆なことをしたのではないだろうか? と気がついた頃には、じわじわと私の熱が上がっていたので、とりあえず今日はここで退散しようと思ったら、黒田さんが私の手をしっかり握っている。
    「また逃げようとしてる? やり逃げは良くないよ」
    「違います、今日はお仕舞いにしようと思っただけです、逃げじゃないです」
    「俺はこの数日、会えなかった分を補充するために、もっと君と触れ合いたいんだけどなぁ?」
    「うぐ」
    「ね、なおちゃん。慣れる練習も兼ねて、もう少し」

     サイカが私を探しに来るまでの間、私達は存分に触れ合った。

                        おわり
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