頬に触れた指が、ゆっくり首に移動するだけで、妙な感覚を覚えた。肩辺りに来たときに逃れようとして体を動かすと、慣らしてるんだからダメだよと諭される。確かにその通りなのだけれど、どうにも体がざわざわする。
くすぐったい? と聞かれて、あぁ、このざわざわってそういうことか、と納得し、少し、と答えた。
暫く肩の辺りを這っていた指が、そのまま控えめな膨らみにも近づこうとするので、手首を掴む。
「外ではダメです。今回こそ職務質問ではすまなくなってしまうのでダメです」
「さっきは触らせてくれたじゃないか、JK」
「さっきのはこの辺りが冷たくないかの確認なのでいいんです。疚しいのはいけません」
そう言えば、ん? という顔をされる。
「俺は充分恥ずかしいことしてたと思うんだけど」
「……例えば?」
「例えば、」
柔らかい感触を唇に感じる。ぎゅ、と顔が熱くなる。
「さっきは君からしてきたのに、そんなに顔を赤くして」
「さっきは、その、勢い……というか触りたいなって思ってしまって、ええと」
「うんうん、可愛いね、なおちゃん。ファーストキスのこと思い出して逃げ回ってたのに、自分からしちゃったもんねぇ」
「それはそうなんですけど……」
しどろもどろの返事を聞きながら、額に、頬に、首筋に唇が触れる。どこかしらが肌に触れる度に可愛い可愛いと口にするので、何て返すのが正解なのかわからず、同時にこの様子を見られたら本当にまずいのではないか? という考えが浮かぶ。
「ほら、なおちゃんも触ってみて」
ボタンが存在しないシャツなので、前ががら空きで、用途のよく分からないベルトと鍛え抜かれた筋肉を惜しげもなく晒した状態でそう言うので、なにも知らない人に通報されないか不安になる。どこをどう触るべきなんだろう。
手が空中にさ迷っている時、サイカの声を微かに感じ取った。サイカには未だ交際の話をしていないので、この状況を見られたら、まぁサイカのことだ、面白がるに決まっている。それだけは避けたい。面倒だから。どう誤魔化そうかと数秒悩んだ後、私は黒田さんのシャツの、本来ならばボタンがある場所をグッと引っ張った。
「Jけ、」
「失礼します」
なんの説明も無しにいきなり投げるのは申し訳なかったので、顔が近づいた隙にこちらからキスをして、背負い投げの姿勢を取る。さすがに投げられないけれど、どうやら隠蔽は間に合ったようだ。
「あ、いた主~~!! ……なにしてるの?」
「投げ技の練習」
「なんで今?? あぁすまないねぇ君、主最近柔道技も身に付けて護身するって言って聞かなくて。君、どうにかできないかい?」
誤魔化しに柔道が役に立つとは思わなかった。
もう暫くはサイカに黙っておこう、面倒だから。ただ、黒田さんに申し訳ないことをしてしまった。現に今も、サイカに捕まっているし。後日お詫びをしよう。私はそう思いながら、彼の手を然り気無く握っていた。