祝福「一番にお祝いをしたかったんです」
俯きがちに彼女が話し始めた。
「恋人だからというのもありますけど」
目線は、手元に。
「賢一さんが、いっぱい教えてくれたんですよ。嬉しいとか、恥ずかしいとか、悲しいとか、そういうこと。元々持っていたのに気がつけなかった私の気持ちを、最初に気づかせてくれたのは、賢一さんなんです」
この手を絶対離さない、という強い意思を感じるほど、握りしめている。
「貴方が居なかったら、私きっと、無為に日常を過ごして、『結局私にはなにもなかったな』って、終わっていたんだと思います。空っぽなままだったんです。ずっと穴が埋まらなくて、そのままだったんだと思います」
強く、強く。
「でも、でも貴方が、こんな私のことを構ってくれたから、私の我が儘を聞いてくれたから、諭してくれて、たくさん話をして。だから、私、貴方が死んでしまうのが嫌だって思ったんですよ。あのときあんな風に笑う貴方をみて、嫌だって思ったんです。明日も隣で話をしたいなって」
ぽたり、ぽたりと手の甲に雫が落ちた。
「でも私、うまく言えなくて。急に泣き出す変な女の子だったのに、賢一さん、抱きしめてくれたでしょう、私きっと、あの時にはもう、好きだったんだと思うんです。少なくとも、ただ知ってる人、同僚の方ではなくなったんです」
顔を上げた。
「……生まれて来てくれて、出会ってくれて、私を好きになってくださって、恋をしてくださって、ありがとうございます。私の隣を選んでくださって、ありがとうございます。……生きることを選んでくれて、ありがとうございます」
その目は真っ直ぐに、こちらを見て。
「一番に伝えたかったんです、これからも、伝えていきたいと思ってます」
そして、
「愛していますよ、賢一さん」
ふわりと、花が咲くみたいに、笑っていた。