かぼちゃのグラタン「トリックオアトリート!」
学校でも使ったゴミ袋のおばけを被ってで迎えれば、瞬きひとつとかぼちゃが返ってきた。
今日は10月31日。すっかりどんちゃん騒ぐためのイベントのひとつとなったハロウィン当日である。そしてこの日もガオのお隣さんである教え子ラシェドと晩御飯を食べる約束をしていた。
「わ、うまそう」
「大量の香辛料と共に送られてきたので」
「あー、いつものカレー屋の?」
「はい」
ラシェドにか、ラシェドの保護者にかは分からないがカレー屋を営んでる知人がいるらしい。実際はカレー屋なのかもわからないが時折カレーの具材が送られてきてはガオ宅にお裾分けしてくれるため、ガオの中ではすっかりとカレー屋になっていた。
「じゃ、遠慮なく使わせてもらうな!」
二人でエプロンを身につけ、改めて手を洗って。そうして手に取ったかぼちゃはずしりと重い。そうだ、と思い立ってスマホにメモした材料を取り出す。最近寒かったから今日はグラタンを作ろうと思っていたのだった。玉ねぎ、しめじ、ベーコン。ホワイトソース用の材料たちはまだ冷蔵庫に。
腕まくりしてまずはかぼちゃを洗う。
「ラップでくるむの頼むな」
綺麗にラップが巻かれたかぼちゃをまるごと電子レンジへ。
「このかぼちゃを器にしちゃおうぜ」
「なるほど、器まで食べられると」
「そーゆうこと!」
レンジから取り出したかぼちゃは湯気が立っていた。竹串で火の通りを確認してから、蓋になるように切る。
「熱いから気をつけてな」
「はい」
ラシェドにかぼちゃのワタ取りと果肉のくり抜いて潰す作業を任せて、ガオはそのほかの材料を刻んでおく。玉ねぎのみじん切りはなんとか耐えきった。
服の袖で目元を少しだけ拭いながらホワイトソース用の牛乳や薄力粉、バターも取り出して、まずは具材をバターで炒める。
いよいよ牛乳を加えて混ぜつつ、煮立ったのを確認してから、潰したかぼちゃも混ぜていく。小学生の力ではなめらかまでいかず少し粗い橙色がほくほくと白に溶けていく。
「これでいいかな」
水気がなくなったそれをかぼちゃの器に戻してピザ用のチーズをかければあとはオーブンに入れて待つだけだ。
「最近寒くなったな」
待つ間、片付けをしながら呟かれたガオの言葉にラシェドはこくりと頷く。
洗剤を流す水はぬるい。
さあさあと排水溝に流れていく泡を視線で追う。秋はあっという間で、冬が来て、そうしたら一旦、担任と生徒ではなくなる。これまでもそうだったというのに、なんだか不思議な心地だった。
不快ではない無言の間に、出来上がりの音が落ちる。二人で顔を見合わせて、どちらともなく笑みが零れた。
余った牛乳とかぼちゃでポタージュも作ってマグカップに注げば完璧な晩御飯だ。
「それじゃあ」
「いただきます」
「いただきます!」
ハロウィンというには静かな夜になった。けれど、口いっぱいに入れたグラタンのあまみと熱さが腹も心もいっぱいになる夜だった。