秋のエスケープ「小さい秋~小さい秋~」
キッチンで五条が歌っている。
「小さい秋~見ぃつけた~」
七海はリビングのテーブルで何となく聞いていた。
「小さい秋~小さい秋~小さい秋…」
冷蔵庫を開け、葡萄のジュースを取り出し、次のフレーズに入った五条は「…あれ?」と歌を止める。
「最初は『誰かさんが』で始まるんですよ」
七海は言った。
「そっか。どんだけ見つけんのかと思った、小っさい秋」
五条は笑う。
「ていうかお前、わかってんなら最初に教えてよ」
「気持ち良さそうに歌ってましたので」
七海は手元の珈琲を飲んだ。
昨夜、遅い時間に五条は七海の家に来た。余程疲れていたのか倒れ込むようにベッドに入り、そのまま眠ってしまった。それでも久しぶりに顔を見て、七海の体温を感じたのが嬉しかったのか、今朝、五条は機嫌がいい。良かったのだが。
1979