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    なとり

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    なとり

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    バレンタインの話
    女子部は一部を除いて全員いるよ
    急いで書いたから雑だけど許せ……………………

    ハッピーバレンタイン!いくら受け取っても十分でないもの、それは愛。
いくら与えても十分でないもの、それも愛。
    <ヘンリー・ミラー>

    ─────

    「う〜〜〜ん・・・・・・・・・」
     振井来華は床が抜けてしまうのではないかという程、同じ場所を往復し続けていた。手には市販のチョコレート。彼女がこれを持っている理由を説明するより、まあカレンダーを見てもらった方が早いだろう。そう、今日は2月の14日。有り体に言ってしまえばバレンタインデーである。
    「・・・よし」
    気になる男性にチョコレートを渡す日ではあるのだが、彼女が手に持っているのは所謂友チョコと呼ばれるそれである。だが、周囲が皆手作りしているのに比べ、自分はここに来る途中コンビニで買った既製品。気後れしないと言えば嘘になる。今から渡そうとしている人物はかなり貰っている筈だから。
    「来華殿?」
    等と思い悩んでいると、不意に目の前の扉が開いて1人の男性が顔を覗かせた。
    「ひぇあっ?!」
    素っ頓狂な声が漏れる。心臓が驚きで早鐘を打った。
    「ひ、ひひひ氷雨さん?!」
    「如何にも氷雨であるが…珍しいでござるな、来華殿がこちらに来るなんて」
    彼の名前は氷雨。来華が1年前に独立したこの出版社に務める雑誌記者であり、彼女の元同僚だ。
    「いえ。少し、ね」
    慌ててチョコレートを後ろ手に隠し、苦笑する。友チョコではあるがなんだか改めて渡すとなると恥ずかしい。だが、来華の真髄は猪突猛進イケイケドンドンである。
    「は、ハッピーバレンタイン、です!」
    「おや」
    氷雨はぱちぱちと数度瞬きしたあとふわりと微笑み、それを優しく受け取る。
    「感謝する。友チョコ、と言うやつであろう?」
    「お、分かります?いつもお世話になってますから」
    「うむ、ありがとう」
    「いえいえ」
    渡せた。心の奥底でガッツポーズをする。
    「その〜、器用じゃないので既製品ですが……」
    「構わぬさ。拙者は来華殿の気持ちを嬉しく思う」
    「良かった。じゃ、糖分しっかり取ってくださいね!神楽坂さんにも言いましたけど、兵糧丸はなんの解決策にもなりませんからね!」
    「わ、分かった……」
    そう言い残して早足で出版社を出る。冷たいながらもどことなく春の柔らかさを感じさせる風が、来華の頬を撫でていった。
    「次は、一颯さんですね!」
    馴染みの喫茶店でよく会う黒ずくめの男の顔を思い出し、今日も彼があの席に座っていることを願いつつ来華は足を踏み出した。

    ─────

    「……ふふ」
    九条巴は机の上に山積みにされたチョコレートを見て小さく笑う。今年は心做しか、 去年より増えたようだ。一つ一つ開封してメッセージを読むのが、毎年恒例のバレンタインの楽しみだ。
    「胃もたれには、気をつけないといけないね」
    もちろん全て食べる予定である。バレンタインは渡す方も勇気がいるが、貰う方もそれなりに大変なのだ。
    ホワイトデーには何で返そうか。彼女はそう考えながら、最初の一箱の封を開けた。

    ──────

    「あ?」
    走り終わって汗を拭いながら、星河きららは首を傾げる。
    「え、っと……ずっとファンでした。貰って、ください」
    綺麗にラッピングされた箱を真っ赤な顔で差し出すのは、どこかで見た気がする女子学生だった。記憶を辿り、思い出す。いつも応援に来ていた人物だ。
    今日は何の日だったかと頭の中でカレンダーを思い浮かべる。2月14日、他ならぬバレンタインデーだ。
    「あー……」
    少し悩んだあと差し出された箱を受け取る。
    「ありがとな」
    ややぶっきらぼうではあったが、感謝の言葉はするりと口から出た。
    「これからも応援、頼む」
    「っ、はい!」
    彼女の顔がぱあっと輝いた。そのままぺこりとお辞儀をして足早に去っていくのを見送ると、ベンチに腰掛け箱を眺める。
    「ま、こんくらいなら大丈夫だろ!」
    次も最高の走りにしねぇとな。そう独りごち、彼女はにこりと笑みを浮かべた。

    ─────

    「……」
    「…………」
    「………………」
    「視線が痛い?!?!」
    東京郊外の幽霊退治事務所に、白菊百の悲痛な叫びが響いた。
    「いやだってお前、電子レンジ……」
    彼女の年下の兄弟子である如月蒼太は、湿度の高い視線を百に向けたまま電子レンジを指差す。まるで漫画のように煙をあげる、電子レンジだったものがそこには鎮座していた。
    「白菊不器用だよな」
    ご意見番の陰陽師、粧凜音はカウンターに頬杖をついている。にべもない。
    「凜音くんまで?!」
    「まぁまぁ、丁度買い替え時だったし」
    と、彼女を慰めるかのように肩に手を置くのはこの事務所の所長、水無月碧であった。
    「まあ確かに、変な音はしてたもんな……」
    「…いやその時点で買い替えろよ」
    「ご意見番、この事務所の金銭的事情ってやつだよ」
    「思ったより深刻だなオイ」
    事務所の赤字に思いを馳せる3人を他所に、百はキッチンの棚にしまっておいた紙袋を取り出した。
    「ええと……これ」
    手作りが失敗した時のために先日デパートで買ってきた、少しお高めのチョコレート。とはいえ百もまさかレンジが爆発するとは思っていなかったが。
    「ハッピーバレンタイン、的な?」
    3人は百を2度、3度見る。
    「な、何さー」
    「……いや、器用なとこあるんだなって」
    「ああ、右に同じく」
    「右に同じくその2……」
    「ふふふ、お陰で貯金は大変なことになってるけどね!」
    少し得意な気分になる。喜んでくれただろうか。
    最初に動いたのは水無月。彼女の頭を優しく撫でると、キッチンの戸棚からティーポットとカップを取り出す。
    「よーし、じゃあお茶したら4人で電子レンジ買いに行こうか」
    「え、マジ?俺あれがいい!ヘルシー調理ができるやつ!」
    「高くない!?」
    「いーじゃん。どうせ料理するの俺なんだし」
    「え〜???」
    珍しく我儘を言う蒼太を前に、水無月はSOSとでも言いたげな視線を凜音へと向ける。凛音はと言うと、先程までとは打って変わって凪いだ水面のような雰囲気を見に纏いながらにこりと微笑んだ。
    「私は、ご意見番ですので」
    「それはそう!」
    そのまま凜音は百に笑いかける。
    「私だけ食べるのはもったいないので、白菊さんも是非」
    「え”、でも私食べたら意味なくない?」
    「いえ、そんな事はありませんよ。誰かと一緒に食べるのも素敵ですから」
    そう言われては断れない。とても嬉しいのだから。困ったように笑いながら、後で親友にも渡しに行こうと思う白菊なのであった。

    ─────

     祈る、祈る、祈る。祈り続ける。
    西園寺琴子が組んでいた手を下ろして目を開けたのは、太陽が中天に掛かる頃であった。
    日付の感覚は無かったが、気まぐれにカレンダーに目をやると今日が2月14日であることが分かった。聖ウァレンティヌスの日。俗っぽく言ってしまうとバレンタインデーである。お世話になっている人、または想い人にチョコレートを渡す日なのだとか。
    渡したい人間はいるだろうか、と考える。世話になっている人物、と考えると2名該当した。だが、生憎片方は遠いイギリスの地にいるため必然的に渡すとすればもう片方なのだが───
    黙って首を振る。恐らく神父はチョコレート類は食べないだろう。後でほうれん草料理でも作って持っていこう。
    まぁ、良い。と忘れようと思った瞬間、不意に脳裏に浮かんだ顔は琴子がこの地球上で最も毛嫌いしている人物のそれであった。
    舌打ちをしかけ、そういえば今の自分は聖職者であったのだと思い直す。だが、何となくこの気持ちをぶつけなければいけない気がして、琴子はスマートフォンを手にした。
    『どうしたの、琴子ちゃん?珍しいね』
    電話口から聞こえる声に被せるようにして、ありったけの苛立ちをぶつける。
    「……生きているのか気になっただけですこの大馬鹿野郎」
    『辛辣?!』
    誰もいない教会に、ジャパニーズマフィアの短い悲鳴が響き渡った。

    ─────

     音無家では、雨音が2人の兄にチョコレートを渡すのがほぼ恒例行事となっていた。とはいえ、雨音が1人で手作りをすると確実に何か大変なものを錬成するため兄達と一緒に作る訳だが。
    「できた!」
    2番目の兄、晴がオーブンを覗き込んで顔を綻ばせる。
    「本当ですか?」
    雨音も彼の隣からオーブンを覗き見る。そこにはチョコレートケーキが美味しそうな香りを漂わせて鎮座していた。
    「ほんとだ、美味しそう!」
    「晴も雨音も、去年より筋が良いんじゃないか…?」
    と、隈が濃い顔に珍しく慈しむような柔らかな表情を浮かべた長男、雷がカウンター越しに声をかけてくる。ここは雨音と雷が同居するアパート。晴は普段一人暮らしをしているのだが、今年は運良く休みが取れたためこのケーキ作りに参加していた。
    「…よし、じゃあ俺がコーヒーを淹れるから」
    「じゃあ僕はこれ切っておこうかな」
    兄ふたりがてきぱきと準備をするのを雨音はニコニコと笑いながら見つめる。後で同僚の3人に一切れずつ持っていってあげよう。そう考えながら。
    「……ハッピーバレンタイン、兄さん。これからも元気でいてくださいね」
    何か言ったかと怪訝そうに聞き返す兄ふたりにいいえ何もと返し、雨音は自分も迷惑にならない程度に手伝うべく食卓へと向かっていった。

    ──────

    「硯見さん?!」
    学会が開かれるとある大学にて栗花落朔太郎が驚きの表情を浮かべるのを見て、硯見灰音は思わず心の中でガッツポーズをした。
    「いや、日本は久しぶりで迷い掛けたけどボクにとっては些事!丁度学会ついでに栗花落さんに会おうと思ってね!」
    栗花落朔太郎。中学教師兼灰音を研究者の道に進ませた、ある意味灰音の恩人とも言える人物である。
    「そっかそっか!どう?日本」
    「治安が良いね。そして公共交通機関のスケジュールにも寸分の違いもない。素晴らしい事だ」
    灰音は普段アメリカのミスカトニック大学で活動している。だが、最近は嬉しいことに世界各国の研究機関から引っ張りだこだ。
    「そうそう。来る途中気づいたんだけど、どうやら今日はバレンタインデーと言うやつらしいね」
    「あー、確かにそうだねぇ」
    「製菓会社の戦略……と言ってしまえば簡単だが、うむ。それは少々浪漫が足りないと思うよ、ボクは」
    「ほう?」
    「ボクにしてはなかなか詩的だろう?」
    確かにと朔太郎が笑う。灰音はすかさず白衣のポケットからチョコレートの箱を取りだした。
    「と、言うわけで、コレ。ボクの恩人である貴方には渡したくてね」
    「えっ、いいの?!やったー!ありがとう!」
    彼は無邪気に笑う。実に渡しがいがあった。
    「ところで硯見さん、例の彼にはあげたの?」
    彼に聞かれ、そういえばと思い出す。そもそも渡すつもりが毛頭なかった。ボクが渡さなくても貰ってるだろうし、と独りごちる。
    「何故だい?」
    「いや〜、友達みたいだからさ。ほら最近は友チョコってのも流行ってるみたいじゃん?」
    「成程?」
    彼の喜ぶ顔は全くもって想像できなかったが、確かに渡してみるのもありな気がしてきた。なんだかんだ食べてくれるであろうことを、灰音はよく知っている。
    「やってみるか!」
    うんうんと頷く朔太郎。遠いオーストラリアの地で何故か背筋を震わせる御曹司がいたとか、いないとか。それはまた、別のお話である。

    ──────

    「……おう、ありがとう」
    アーノルド・エルロックが珍しくその険しい顔に笑顔を浮かべたのを見て、ネリー・ルブランも何だか晴れやかな気分になる。この国では男性から女性にプレゼントを渡すのが一般的だが、日本人の友人に聞いた通り、今年は逆にネリーがチョコレートを作ってみたのだ。
    「アーノルド先輩のは少し甘く作ってみました。糖分、大事でしょう?」
    「ああ、確かにな」
    ちらりと、普段はアーノルドが座っている椅子に優雅に腰掛ける彼の兄、マイクロフト・エルロックに目をやる。
    「マイクロフトさんも、あまり根を詰めてはいけませんよ」
    「ああ、分かっているとも。ありがとう」
    彼はアーノルドとネリーによって現在半ば無理やり取らせた休暇を満喫中である。とはいえやることと言えばこの場所でアーノルドの解決した事件の報告書を読むくらいだが、それでもいつもの彼よりは休めている方だ。
    ネリーはこの2人のことが好きだった。好きな人には健康に生きて欲しい。特に、この兄弟は無理をしがちなのだから。
    そんなネリーの気持ちを知ってか知らずか、アーノルドは彼女を安心させるように肩を叩く。
    「兄さんは任せろ。兄弟で食事にでも行ってくるさ」
    「…………」
    「あー……俺も休むから」
    「……絶対ですよ」
    今日くらいは休んで欲しい。そう目で訴えかけると、流石のアーノルドも折れたようだった。
    2人に別れを告げ、221Bから出て街を歩く。やはり街には恋人達の姿が多い。見ていると何だかこちらまで楽しい気分になった。
    その足でネリーが向かったのは、ロンドン屈指の観光地、大英博物館。若干方向音痴なネリーには目が回りそうなほど広い場所だが、その足は迷いなく進んでいた。それほどまでに、ここは行き慣れた場所なのだ。
    去年は彼が髪留めをくれたのだった。だから、今年は先手を打ってみる。彼は喜ぶだろうか、それとも照れるだろうか?その反応を想像するだけでも口元が綻んだ。自分でも呆れるくらい、彼のことを考えている。
    彼の姿を視界に捉えると、嘘のように心臓が高鳴った。
    「こんにちは。────」
    名前を呼ぶ。彼は読んでいた本から視線を上げてネリーを視界に入れると、まるで芸術品のように整った顔を紅潮させる。寒さのせいだろうか?否、それは言うまでもないだろう。

    だが、この続きは薔薇の下で。
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