されど求めるものはやってしまった、とジュウザは頭を抱えていた。レイに無体を働くつもりなどなかったのだが、彼の反応があまりにも面白くて、ついつい辞めることができなかった。
何故、と自問自答しなくたってジュウザの中で答えは出ていた。レイという気高い男をねじ伏せることに快感を覚えているのだ。自分とは違い己の道を定めた彼を、迷い惑う自分を誤魔化すために利用できる喜びを知ってしまった。我ながら最低だとジュウザはため息を吐く。
ちゃんと謝らないとなぁ、と隣で眠るレイの髪を撫でる。すぎた戯れ付きだと言えば、文句を言いつつもきっと彼は許してくれるのだろう。そうして、この年下の男に甘えてしまうのだと、ジュウザは自嘲するのだった。
「……ん」
もぞりと身じろぎしたレイに、ジュウザは慌てて手を引っ込める。薄らと目を開けたレイがぼんやりとした様子で辺りを見渡していた。
「あれ? 俺……寝てたのか?」
「あー……うん。ごめんね、起こしちゃったかな?」
まだ少し眠そうな目元をするレイに、ジュウザは申し訳なさげに微笑む。そんな彼にレイは首を横に振って見せた。
「いや、大丈夫。今何時だ?」
時刻を確認すれば、起きるにはまだ早い時間だ。けれど二度寝するには中途半端な時間帯である。レイはちらりとジュウザの方へ視線を向けた。
「……どうする?」
「そうだねぇ……」
このまま起きてしまおうか、それともわずかでも惰眠を貪ろうか。どちらにせよレイが起きるならジュウザも一緒に起きるしかない。ここは水鳥拳の総本山だ。二人揃って朝寝坊なんてしたら部外者のジュウザはともかく、レイはお叱りを受けるだろう。
ふっと笑みを浮かべたジュウザはレイの手を取って引き寄せると、そのままベッドの中へ沈み込む。驚いているレイの身体を抱き込んで、その背中をポンポンと叩いた。
「昨日の夜は悪かったな……」
「……別にいいが、こういうのは女にしてやれよ」
レイはベシベシとジュウザの腕を叩きながら、突然抱き込まれたことに文句を言いつつもその腕の中に収まる。トクリトクリと伝わってくる鼓動の音を聞きながら、レイは再び閉じそうになる瞼を落ちないようにと支えていた。このままではまた寝てしまいそうだとレイは身を起こすと、ジュウザの腕から抜け出した。
「今度、うまい飯奢れ。それで昨晩のことはチャラだ」
床に散らばった服を掴み上げて、レイは身支度をしている。その姿を見ながらジュウザは苦笑いをしていた。
「レイってば男前だねぇ……」
欲望のままに無体を働いた自分とは大違いだ、とため息をつく。ジュウザの言葉はレイには聞こえなかったらしい。簡単に衣服を纏ったレイがぐるりとジュウザを振り返った。
「朝飯食ってくだろ?早くしろ」
そう言ってジュウザの服を拾って寄越した。曖昧な笑みを浮かべてそれを受け取ったジュウザは、レイに追いつくため、己も身支度をするのだった。