世知辛い世の中なんて自分に息子がいるだなんて夢にも思わなかった。
今よりも地に足がついていなかった頃、お付き合いしていた女の子の一人だったことは覚えている。なんとなく気があって、なんとなく付き合いやすい子で、なんとなく会わなくなっていった。そんな相手からの突然の連絡に、すぐに答えることなどできなかった。
俺が珍しく一人で悩んでいたら、いつもと様子が違うのを気にした異母兄が、それこそ珍しくどうしたと声をかけてきた。
「俺、子供いるみたい」
そう伝えたリュウガの形相はハッキリ言って面白かった。驚きと怒りと呆れを混ぜるとこんな顔になるんだなぁ、と他人事のように思ったものだ。最終的にはさっさと会いにいけと怒鳴り散らされた。
異母兄の後押しもあって、会う決心をしたというのに、残念ながら彼女は帰らぬ人になっていた。
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