「あの本、返してくれるか」
強い日差しの中帰ってきたオレに、そういやと前置きしたキリュウが切り出した。すっかり手放せなくなったサングラスを外すと、ダイニングテーブルに積み上がる本が目に入る。その塔を前にあ、と自分の部屋の机の上に置いてある文庫本を思い浮かべる。ロマンスものの短編集だった。キリュウが図書館で借りてきた六冊のうちの一つで、オレが珍しいなと言って興味を示すと、持って行っていいと言われたので、好意に甘えて自室で読んでいた。
「ごめん、まだ読み終わってないんだ」
あと三割ほど残っていた。返却期限を聞いていなかったな、と少し悔いる。けど、言い出した側のキリュウはさして焦っていなかった。
「なら延長しようか」
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