怖い話もほどほどに「なぁ結希人、怖い話して。」
唐突にそう声をかけてきた友人に結希人は首を傾げる。
「どうしたの急に?」
「いや、なんとなく。お前なら手頃な怖い話知ってそうだなって。」
特に深い意味はないのだろう。
怖いもの見たさでネット上に転がってる怖い話を読むのと変わらない。
そう判断した結希人は記憶から適当に引っ張り出して話し始めた。
「……じゃあ」
そうして話したのはじわじわと日常に浸食する違和感。
普通だったはずの日常が段々と狂っていく様。
気付いたらもう手遅れになっており、原因と思われる"ソレ"が後ろにいる事に語り手が勘付いた所で話が終わる。
「ヒェ……ガチで怖い奴じゃん」
ここまで怖い話が出て来るとは思っていなかったのだろう。
少し顔を青くして震える友人に結希人は追い討ちをかけていく。
「……ところでさ」
「……何?」
「後ろにいる女性、誰?」
「え?」
咄嗟に後ろを振り向くがもちろんそこには誰も居ない。
「……なぁ結希人、冗談、だよな?」
思わず引きつった笑みでそう聞く。
だが結希人は何も答えない。
「おい」
目線も変わらず背後の"ナニカ"に向いている。
「嘘だって言ってくれよ!」
友人は思わず結希人の肩を掴んで声を荒げた。
それに結希人はふっと表情を柔らかくして笑い出す。
「……ふふ、嘘だよ。」
「勘弁してくれ!お前のそれは洒落にならないんだって!」
そう、御神楽結希人は両親が神社勤めで、代々神に仕えてきた家系の出身。
しかも周囲の証言や本人の言動からガチの霊感持ちである可能性が高いのだ。
なんせ彼はそういう冗談で常に周囲をからかって遊ぶタイプの人間ではない。
まぁこういう時にふざけて冗談を言う事はあるが。
「あはは、ごめんね。つい。」
その反応に、本当に嘘だったのだと胸を撫で下ろした瞬間だった。
「話に出てきたのは女性の霊だから女性って言った方が怖いと思って。」
「……ん?」
その言い方に少し違和感を感じた。
居ることが嘘であったのなら、「居るって言った方が怖いと思って」と言うのではないだろうか。
わざわざ性別に言及する必要はないはずだ。
結希人はまた"後ろ"に目線を向ける。
「それで、おにーさんはどうして彼に取り憑いてるんですか?よかったら話聞きますよ?」
明らかに目の前にいる友人に対する言葉遣いではない。
その結希人の発言に顔を青ざめる。
「なぁ、結希人、お前、何に」
「もしかして還り方がわからなくなったんですか?……そうですか。それならうちの神社に来ます?未練がないなら直ぐに還してあげられると思いますよ。……もちろん。任せてください。」
見えない何かと会話を終えたのか、結希人は友人の方に向き直す。
「ねぇ」
「な、何」
「最近怖い話たくさんしたりとか、心霊スポット行ったりとかした?」
「……あー、えと、友達と、百物語やって」
「どう言う手順で?」
「て、手順?」
「普通に話し合っただけ?」
「え?あ、うん。」
「それいつやったの?」
「あー、一週間前、くらい?」
「一週間前だと……新月か……。誰かの家に集まったりした?」
「いや、通話で」
「灯心とか用意した?」
「とうし…?」
「ろうそくとか」
「いや。さすがに百本も用意できないし」
「その時青い服は着てた?」
「青い服?いや、そん時着てたのはグレーだった」
「部屋から危険物は出した?」
「危険物?」
「カッターとかハサミとか、何かしら傷つけられるもの。」
「引き出しとかに入れっぱなしだったけど…」
「何話目まで語った?」
「…確か、99話」
「朝になったりもしてないよね?」
「え?うん。」
結希人は少し考えるそぶりをした後、にこりと笑いかける。
「よかったね。正式な手順でやってなくて。」
「え?」
「それと今が昼でよかった。最悪俺のが百話目になってたかも。」
「……確か百物語って最後まで語ると」
「本物の怪が現れる。」
「怪って…」
「通説では青行燈と言われてるけどね。まぁ本当に何が出るかわかった物じゃないし、ちゃんとしたルールでやってたら、話を99話に行かず途中でやめたり、朝までに語れなかったりすると災が起こるとも言うし。実際ほら、悪霊ではなかったけど霊を呼び寄せてしまったわけだし。」
「……なぁ結希人、まさか」
「……ほら、今も君のとなr」
「いい!何も言うな!俺が悪かったから!」
「一応大丈夫だとは思うけど心配だったらお払い行った方がいいかもね。そう言う思考や言動は実際に引き寄せちゃうから。」
「…ハイ」
「あぁ、それと。やめろとは言わないけど。」
頬杖をついてにこりと笑う。
「怖い話もほどほどに、ね?」