抱える温もり賢者の書にペンを走らせていると、コンコンとノックがした。月が煌々と輝く夜、今日もまたひとりの青年が晶の部屋を訪れる。
「賢者様、寝かせて下さい。」
「こんばんは、ミスラ。ノックをしてくれて嬉しいです。」
「はぁ、そうですか。」
振り返るといかにも眠そうに、どさりと晶のベッドへ身を投げるミスラがいた。シングルベッドに堂々と寝転がる彼は、それだけで広告のモデルのようだ。我が物顔で占領している姿を見て、晶は苦笑いを浮かべる。
「まだですか?俺はもう眠いんですけど。」
「…もうちょっとだけお願いします。」
「はぁ。あなたじゃなかったら、殺してました。」
最初の頃であれば、この物騒な発言に肝を冷やしただろう。だがそう短くもない月日を共に過ごした今となっては、彼なりの譲歩であり、優しさなのだと分かる。
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