秋の夜「……なに、してるんだ?」
「……涼んでる?」
主は、新たに手に入れた三日月を望む展望の間に、薄着で座り込んでいた。見ているだけで寒々しい。
「こんな、肌寒い秋の夜に?」
好きなんだよね、と主は言う。おぼろな月が浮かぶ春の夜も、もう幾日かで「涼しい」ではなくなる秋の夜も。
大般若長光は、主の横に並んで座った。内番の上着を着ていればかけてやれたのに、仮に上着らしいベストを着せても、暖は取れないだろう。
「大般若が初めて顕現したのも、きっとこんな夜だったんだろうね」
こんな三日月ではなかったと思うけど、と青白く照らされた横顔が笑う。思わず大般若長光が主の頬に手を伸ばすと、見た目に反して燃えるように熱かった。
「……だめだ」
「なにが」
「頼むから早く俺に口説かれてくれ」
自分の刀身のように、月は冴えている。これ以上、月光にさらしたら主が目には見えない傷を負ってしまう。そんな思いに駈られて、大般若長光は奥歯を噛んだ。
「へんな大般若」
心配しなくても風邪なんかひかないよ、と主が笑う。
「私の秋水」
「やめてくれ、それ」
「だって、大般若と縁の切れるものになりたくないんだもの」
俺は刀なのに、と思わずこぼす。妻問いに応じない彼女が、三世なんてものを信じているとでも言うのだろうか。