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    albatrosstale11

    刀剣乱舞は刀×女審神者の夢小説置き場

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    albatrosstale11

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    獅子王×女審神者が耳すまの真似をする話

    目が眩むほどの「主! 行こうぜ!」
    朝陽かと思ったら、獅子王の髪だった。空はまだ暗く、本丸はまだ寝静まっている。寝間着に上着を引っかけて出かける、なんて本当に映画のワンシーンだ。
    「獅子王、よく起きたね……」
    「へっへっへー」
    がちゃがちゃと音を立てながら、獅子王は乗れるようになったばかりの自転車を引っ張り出す。
    「さ、後ろ乗ってくれ!」
    ──先日、獅子王と一緒に映画を観た。青春映画だ。進路に悩む女の子が主人公。出会ったときは憎らしかったはずの男の子と、猫や音楽や趣味を通して心を通わせる。男の子は夢がすでに決まっていて、女の子は焦りながらも自分のやりたいことを探すために前に進む、そんな話。
    好きな映画だから、獅子王も気に入るといいな、とは、確かに思った。でも、獅子王は私が思ったよりもはまってしまい、その映画のラストシーンを私と真似したい、と言い出すまでになるとは思わなかった。
    「本丸の裏の山なら行ける!」
    「いや、だって獅子王、自転車乗れないでしょ」
    「いいや! 練習する! 主を乗せて初日の出を見るんだ!」
    べつに映画のシーンは初日の出ではなかった。もしかして、そこがかれに刺さったのだろうか。
    「乗れるようになったら言うからな!」
    「鵺を肩に乗せてるんだから無理しないでね」
    私は自転車乗れるから、ツーリングすればいいよと言っても、獅子王は首を横に振る。
    「主には歌を歌ってもらわないとだからな!」
    ……そして、各自の練習が始まった。獅子王は自転車、私は歌。現役の高校生のときでさえしなかった青春を、審神者になってからするとは。いや、でもなんで歌うの? 高音に苦しめられながらも、執務の合間に歌の練習をした。
    そんな私の疑問はさておき、獅子王の自転車特訓は、初日に派手に転んで、ものすごい傷を作ったこと以外は(刀傷じゃないからか、手入れでは治らなくて私がちょっと泣いた)持ち前の腕力と脚力で、3日ほどであっさりマスターした。なんなら、苦手な畑仕事も、自転車を導入して、足取りがすこし軽快になったくらいだ。
    自転車に乗れるようになったので、イメージトレーニングと称して、改めてラストシーンを見直し、初日の出じゃなかったと気付いた獅子王は、善は急げと翌朝迎えに行くからな! と、来たのが今。
    「しっかりつかまれよ!」
    「はーい」
    夜明け前で、辺りはまだ暗い。迷って、自転車の荷台に横座りになる。立って乗るのは自信がなかった。そんなことはつゆ知らず? 気にせず? 内番のジャージの上を私に着せた獅子王は、意気揚々とペダルを漕ぎ始めた。
    そういえば、私の方は自転車の2人乗りの練習はしなかったけど(乗れて本当によかった)、獅子王は本丸のだれかと練習していたのかもしれない。軸が全然ぶれない。
    本丸を出て、獅子王の自転車は、整備されているわけではない、がたがたの道を走る。まだ、世界は静まり返っている。
    「主、歌ー!」
    「♪……♪♪……」
    「聞こえねぇ! でっかい声で歌えー!」
    「♪~♪♪~!」
    それ二番、とか言われながら、なんとか歌う。……これ、私が歌う意味、あるのかなあ。映画だと、女の子が自転車押してた気がするんだけど……、と、また歌詞を間違える。音楽を再生できる機器を持ってくればよかった。
    「♪♪~!」
    「どおりゃああ!」
    山道にさしかかり、獅子王は力強くペダルを踏んだ。降りようか、とは言わなかった。やると言ったら、絶対にやる男士だ。私は歌に専念する。まだ夜をはらんだ冷たい山の空気で、私のほうが息が上がっていた。
    「♪ー!」
    「これで……っどおだー!!」
    ペダルを漕ぐ、獅子王のからだがどんどん熱くなる。どくどくと全身に血を送りながら、がんがん山を上って、でもやっぱり刀剣男士の体力は人間と比べ物にもならないので、割合あっさり山を登ってしまった。勿論、息が乱れることもない。
    「へへっ、どうだよ主!」
    「すごいすごい、さすが獅子王」
    自転車を降りて、並んで日の出を待つ。雲海、というほどではないけれど、薄い雲が白んでいく空は、映画のワンシーンでも通用しそうだった。
    「あ」
    「あそこ、本丸だ。何人か起き出したみたいだな」
    「ほんとだ」
    眼下に本丸を見つけて、双眼鏡とか持ってくればよかったなあ、と毎日見ている景色なのに思ったりする。最初の頃に比べて大所帯になったなあ──、初陣、大阪城、江戸城、特命調査、戦力拡充、……と、色んなことが一気に思い出された。
    そして、そのどんな時も、頼りにしている、黄金の髪をもつ男士をちらりと見た。ぱち、と金色の瞳と目が合う。
    「主、大好きだぜ」
    がば、と音がしそうな勢いで、獅子王が私を抱き締めた。揺れた髪が朝陽に照らされて、私の視界いっぱいに、金色が広がっていく。
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