(しまったタイトル考えてなかった大学時代鈴薪です)明かりを落とした部屋の中は、窓から差し込む月明かりにひっそりと照らされていた。月の光が隣で眠る薪の栗色の髪の上で、小さな王冠のような天使の輪のような、そんなちらちらと輝く銀色の輪を描く。その光景は、子どもの頃読んだ本に出てきた海の底で眠る宝物を思い出させた。
ここは薪の家の客間。並べて敷いた布団に俺と薪がほぼ同時にもぐりこんでもう二時間は経つ。しかし、今夜もなかなか薪に眠りが訪れない。無理もない。
薪は幼い頃に両親を失った。その傷さえまだ十分に癒えていないというのに、その孤独で小さな背中にはさらに十年間一緒に暮らした養父の裏切りと死と彼が隠していた目をそむけたくなるような真実が追加でのしかかった。俺と出会って間もない頃でさえ両親を失う悪夢にうなされていた薪は、澤村を失ってさらに不安定になった。そして澤村の死後一年近く経つ今でも薪の状態は落ち着かず、不眠や情動不安定をはじめさまざまな不調に悩まされている。
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