君のために謡う歌大倶利伽羅は秋の味覚を味わうために山に来ていた。さて、今日はなにを食べようか。握り飯も持ってきたから、七輪であぶって焼きおにぎりにするのもいい。準備をしていると、目の前に顔のいい男――豊前江が歩いてくるのが見えた。
「……豊前江」
「おお、大倶利伽羅さんよ。島原以外だな」
「そうだな」
「なにしてんだ?」
「お前も食べるか?秋の味覚祭りだ」
「お、いいねえ!さっき、下の川で魚釣ったからこれも食べようぜ!」
豊前江の肩には活きのいい魚がびちびちと跳ねている。男前は服が濡れても気にしないのだろうか。不思議な男だ。
豊前江は最初は大倶利伽羅を「くりさん」と呼んでいたのだが、恥ずかしいから「大倶利伽羅でいい」と伝えてある。
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