春の夢 春まだ浅く、苫屋の粗末な壁や板目からは冷たい夜の寒気が忍び込む。禰󠄀豆子は寒さを凌ぐため掻巻の上に藁をうず高くかき集めて、中で小さく丸まった。まだ五つになったばかりの禰󠄀豆子にとって夜は物寂しく、恐ろしい。うまく朝まで目覚めなければいいが、手足の冷えや首筋に吹き込む寒風に目が覚めてしまうと、もう眠れない。下手をすれば部屋の暗がりに怯えながら、まんじりともせず朝を迎える羽目になる。
物心ついた頃から禰󠄀豆子は、優しい兄の炭治郎と二人暮らしであった。父の消息はしれず、母は幼い頃に亡くなったらしい。
炭治郎は日の出前から起き出して山で木を切り、それを炭に焼いて近くの里で売り歩く。大人でも大変な仕事を、兄は昔からひとりでやってきた。
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