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    ロミオ

    成人女性(昭和生まれの年増オタク)。妄想を書き殴ってはアップします。愛され🎴くん大好き、🎴くん右固定。🔥さんは🎴の左にしか居ない。特に🔥🎴を愛好してます。家族にはオタ秘匿中のため、低浮上であります!

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    ロミオ

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    2/11 webイベント「明日の君に逢いに行く」で公開した現代軸れんたんです。

     若手政治家の煉獄さん×パン屋の炭治郎。記憶ありの二人が出会い結ばれるも、週刊誌に二人の関係がスキャンダルとして報じられてしまい、炭治郎は別れを選ぼうとするが……?というお話。ハピエンです!

    #煉炭
    refinedCarbon
    #煉獄杏寿郎
    Kyojuro Rengoku
    #竈門炭治郎
    竈門tanjiro
    #杏炭
    charcoalUsedForTeaCeremony
    #ハピエン
    happyNewYear
    #腐滅の刃
    sink-or-swimSituation

    離したくはない 強情な赤い瞳が、じっとこちらを見上げている。涙を堪えるように潤んだ目を見開いて、唇をへの字に曲げて。頑固な所は昔とちっとも変わらない。百年前のあの時、並の隊士なら震え上がる様な柱の面々を前にして、君は傷だらけの体で必死に妹を庇っていた。新人隊士でありながら、風柱へ捨て身の頭突きを一発喰らわせたあの胆力には全く恐れ入ったものだ。あの頃と変わらぬ強い意志で、君は俺の心を掻き乱す。

    「君は俺をどうしたいんだ」

     燃え盛る炎のような瞳は生半な覚悟を許さぬ迫力だが、見上げる青年の瞳は微塵も揺るがず。むしろ一歩も譲るまいと、意志の強い眉尻がきりりと上がる。
    「煉獄さんには、幸せになってもらいたいんです。ですから」
    「なんだ」
    「俺の事は忘れて下さい! 俺とすっぱり別れて、うんと幸せになって下さい!!」
     そう言って深く頭を下げると、踏み止まっていた涙がぽたりと地に落ちる。だが恐らく、恋人に涙は見られていないだろう。竈門炭治郎は頭を下げたまま、片手でぐしっと乱暴に涙を拭う。対する煉獄杏寿郎は激情を無理やり押さえつけるあまり、恐ろしいほどの無表情で恋人を見下ろしていた。それは爆発の前の静けさに過ぎないのだが、炭治郎はそれに気づかずゆっくりと頭をあげる。無言と言うことは、受け入れてくれたのだろうかと視線を戻すと、炭治郎とたっぷり五秒ほど見つめ合ってから漸く煉獄は口を開いた。

    「竈門少年、それは出来ない」
    「……」
    「何度も言うが、俺は君と別れるつもりは毛頭ない」
    「でも……っ!」
     悲しげに流れる炭治郎の視線を追いかけて、煉獄はテーブルに広げてある週刊誌を一瞥する。
    「こんなもの、くだらん」
     苦々しい顔で雑誌を手に取り、記事に目を落とす。白黒の写真には黒っぽいチェスターコートを着た煉獄と、白っぽいダッフルコートを着た青年が並んで歩く姿が写っている。夜間に望遠で撮ったらしい写真は少しボケていてハッキリと顔立ちまでは分からないが、知っている人が見ればこの人物が竈門炭治郎であると容易に分かるだろう。写真には「熱愛発覚!煉獄杏寿郎(三十三) 、深夜のお忍びデート!! お相手はまさかの男性!!!」と、エクスクラメーションマークが三つもついたアオリが添えられている。恐らくクリスマスにデートした時に、撮られたのだろう。およそ友人とは言い難い距離で肩を寄せ合う姿は、どう見ても恋人同士だ。
    「いつか、こんな日が来るって覚悟してました。だから、大丈夫です……俺は煉獄さんの、足手纏いにはなりたくないんです」
     炭治郎は居た堪れないという表情でキツく目を閉じて項垂れた。かちゃりと音をたてた耳飾りが、両頬に影を作る。青褪めた炭治郎の横顔は、何時もより少し窶れて見えた。煉獄は忌々しげにため息をつき、雑誌を丸めてわざと乱暴にゴミ箱へ突っ込む。そして俯く炭治郎を抱き寄せ、頬に頬を合わせて静かに言った。
    「マスコミの言う事がなんだ。こんな物に振り回されて君を失うくらいなら、俺は全てを捨てる。その覚悟が、ある」
     煉獄の金の髪がぱさりとひと束滑り落ち、赤く染まった毛先が少年の頬を撫ぜた瞬間、彼は身を貫かれた様にビクッと肩を竦めた。
    「煉獄さん……!」
     呼吸の仕方を忘れてしまった様に、息も絶え絶えに煉獄の名を呼ぶ。精いっぱいの意地で煉獄に別れを告げたのだ。何があっても泣くまいと唇を噛み、煉獄の抱擁を拒もうとする姿がいじらしい。

     ああ、愛しい。愛しくて堪らない。こんなにも俺を求めている癖に、君は俺を手放せるというのか。

     抱く腕に力を込めると、炭治郎は緩く首を振って抵抗する。
    「だめです! 俺なんかの為に、議員を辞めるのは駄目です!! 天職だって言ってたじゃないですか。ほんの僅かでもいいから、社会を良い方に変えたいって」
    「今でもそう思っている! だから君が必要なんだ。独りで踏ん張り続けるには限界がある。この三年間、君が支えてくれたから頑張ってこれたんだ!!」
     熱っぽくかき口説いて顔を覗き込もうとするが、炭治郎は首を振って煉獄を拒む。駄目だ、こんな至近距離で見つめ合ったら流されてしまう。
     煉獄の厚い胸板と太い腕が炭治郎の抵抗を柔く押し包む。逃れたいが逃れられない甘い檻だ。炭治郎は、この腕の中の心地よさを十分過ぎるほど知ってしまった。本当ならいつまでもこうして、煉獄の腕の中に居たい。だがそれは、許されないのだ。

    「もう、無理なんです。これ以上、貴方と一緒には居られない……!」
    「何故だ! 俺の事が嫌になったか!!」
    「嫌になりました!煉獄さんの事はもう……っ、す、好きじゃありません!」
    「なら、俺の顔をちゃんと見て、もう一度言ってみろ!」
    「ぐぬ……」
     炭治郎は妙な呻きを漏らして黙り込む。彼は嘘が苦手なのだ。嘘をつくと生真面目な性格が災いして、顔が歪んでしまう。それでは煉獄に大笑いされて終わりだ。炭治郎は小さくため息をつき、煉獄の胸の中に顔を伏せたまま、くぐもった声で呟いた。
    「……煉獄さん。俺、知ってますよ。後援会の方々から、縁談話がたくさん来ているでしょう?幹事長からも直々に、そろそろ身を固めろって言われたそうじゃないですか。もう、潮時ですよ……政治家として将来を嘱望されている貴方が、俺なんかに……」
    「人から何を言われようが構わん! 俺には君が必要だと言っている!!」
    「今だけですよ」
     炭治郎は顔をあげないまま、悲しそうに「今だけ」と繰り返す。その声は絶望に塗り潰され、普段の明るく柔和な彼からは想像もつかない程の哀愁を帯びていた。
     俺が彼を、そこまで追い詰めてしまったのか。なんたる怠慢、全く不甲斐なしだ。煉獄は眉間に皺を寄せ、堪えていた怒りを爆発させる。

    「君はそれでいいのか?! 俺と離れても良いと、本気で思っているのか!!?」
    「思ってますよ! 俺は煉獄さんの子供を産めない。どんなに頑張ったって、貴方に家族を作ってあげられないんです!!」
    「君が家族になればいいだろう? 子供が持てない事は承知の上だ。両親にも君の事はきちんと話しているし、今更そんな事は問題じゃない。そもそも女性と結婚したからといって、皆が子供を持てるとは限らないだろう? そんな不確かな未来の為に、君を諦めたくはない!」
    「諦めて下さいっ!!」
     顔を上げた炭治郎は涙でぐしゃぐしゃになっていたが、不思議とその顔がとても美しく見えた。泣いて赤くなった目元も鼻も、苦しげに寄せられた眉も、何もかもがただ、愛しくて堪らない。
     炭治郎は紅玉の様に煌めく瞳を眇めて、苦味を吐き出すように言葉を続けた。
    「俺は貴方に、返しきれない程の恩があります。貴方の犠牲が無かったらあの夜、俺は猗窩座に殺されていました。貴方が死んだ後も、俺は貴方の残してくれた言葉に励まされて、何度も何度も死線を潜り抜けたんです」
     ぽたぽたと惜しみなく流れる涙は、百年の時を遡りあの日の黎明を思い出させる。出逢ったその日に分たれた運命のあの日を。
    「貴方は俺の恩人です……なのに俺は、貴方からの恩を仇で返してばかりだ。再会したあの日、俺は煉獄さんに声を掛けるべきじゃなかった。どんなに貴方が好きでも、関わるべきじゃ無かった。俺の弱さが、貴方を苦しめてるんだ!」

    ******

     二人が今世で再会したのは三年前の雪の日に遡る。
     午前中の会合が長引き、煉獄は次の移動先へ向かう為に車を待っていた。明け方から降り出した雪は未だ止むことなく厚く積もり、交通機関がかなり乱れてしまっているらしい。遂に迎えの車から渋滞に嵌ってしまったと連絡が来たので、煉獄はタクシーを拾うべく通りに出た。しかし雪は激しくなるばかりで、タクシーどころか車の影すら見当たらない。どうしたものかと途方に暮れていると、不意に後ろから声を掛けられた。

    「煉獄さん、ですか?」

     その声に、胸が震えた。振り返るとそこに、あの日と変わらぬ赤みがかった髪と丸い瞳の青年がいた。思わず竈門少年、と名前を呼ぶ。その呼びかけにクスッと小さく笑って「まだそうやって呼んでくれるんですね」と彼は答えた。どうやら彼にも前世の記憶があるらしい。煉獄は衝動的に手を伸ばし、炭治郎を胸の中に引き寄せた。
    「煉獄さん……!?」
    「……逢いたかった!」
     万感の想いを込めて囁く。降り頻る雪の中、煉獄の言葉は白い湯気となって冷たい外気に消えた。

     煉獄は前世、つまり大正時代の鬼狩りの記憶を持って生まれ、かつての仲間達とも再会を果たしていた。仲間達のほとんどが前世の記憶を持っていたが、稀に全く記憶を持たない者もいた。記憶を持たない者に前世の話をするのは憚られる為、そういった者達とは無理に交流せず、煉獄は記憶ありの仲間達と積極的に付き合いの輪を広げていった。
     煉獄が転生した仲間たちと交流を深めた理由は、懐かしさからだけではない。煉獄は己の死際に立ち会ってくれた少年たち、中でも煉獄の遺言を託した竈門炭治郎に一言礼を言いたいと願っていたのである。
     始めにかつて同じく柱を務めた宇髄天元を通じて黄色い少年、我妻善逸と再会した。次いでその一年後、猪頭少年こと嘴平伊之助とも再会できた。そこで彼らから竈門炭治郎が鬼の首領を倒し妹を人間に戻すという本懐を遂げたものの、その代償に若くして亡くなった事、最後まで煉獄の刀の鍔を大切にしていた事を知り、彼に逢いたいという気持ちがますます強くなった。

     しかしその後も彼の行方は杳として知れず、おそらく竈門兄妹は転生しなかったのだろうという憶測まで広がる始末であった。なぜなら彼に縁のある人物、同期の嘴平伊之助や我妻善逸、栗花落カナヲ、不死川玄弥といった面々も誰一人として彼の行方を知らず、兄弟子である冨岡義勇に至っては前世の記憶すら持ち合わせていなかったからである。辛うじて冨岡の同期だった村田のお陰で、冨岡の近くに転生していた錆兎(入隊選別で面識があった)に気がつき、そこから辿って元柱の鱗滝や彼の門下生も転生している事が判明したのだが、それまでは鱗滝とその門下生達は転生していないと思われていたのだ。故に竈門炭治郎は転生していない、と信じられていたのである。
     無事に鱗滝と彼の門下生達の消息を確認した煉獄は、わざわざ他県まで赴いて鱗滝に詳しい話を聞きに行ったのだが、此処でも炭治郎の消息は全く掴めなかった。

     竈門少年は、どこにいるのだろうか。別れの朝、大粒の涙を溢しながら、懸命に煉獄の言葉に聞き入っていた顔が忘れられない。朝焼けが彼の姿をオレンジに染め、眩い朝日を映した紅の瞳がきらきらと輝いていた。それは転生してもなお煉獄の劍裏に焼き付き、朝な夕なに心を熱くするのだ。

     煉獄の父・眞寿郎は四十歳で入閣して大臣を歴任、官房長官も務め、総理に最も近い男と呼ばれていたが、五十を過ぎて突然政治家を辞めた。病身の妻と静かな暮らしがしたいと望み、引退する三年前から私設秘書にしていた長男・杏寿郎に地盤を譲りさっさと隠居してしまったのである。煉獄杏寿郎は二十八歳で衆議院選に初当選し、若手議員のリーダー的な役割を担って活躍した。衆議院では内閣委員会や安全保障委員会などに所属し、党内でも外交や環境関連の部会に所属して副部会長などを歴任、三十歳で内閣府大臣政務官に就任した若手政治家のホープである。精力的に仕事をこなし、各地に遊説や挨拶回りで飛び回る中、疲弊した心の片隅で、いつも炭治郎の面影をなぞっていた。

    「煉獄さん……」
     抱きしめた腕の下で、青年がそっと煉獄の胸に頬を預けて名前を呟く。記憶にある十五の彼より背が伸び、面差しも少し大人びているが、柔らかな声音と真っ直ぐな赤い瞳は少しも変わっていない。雪曇りの陰鬱な空の下でも、不思議とその瞳は明るく光を孕んで輝いている。炭治郎は煉獄の背におずおずと手を回して、穏やかな声で言葉を続けた。
    「俺もずっと、煉獄さんに逢いたいと思ってました」
    「そうか……」
     芯まで凍えていた身体に、炭治郎の温もりが沁みてくる。この温もりを求めていたのは、体なのか心なのか。煉獄は炭治郎の赤みがかった髪にそっと顔を埋めた。しんと冷たい雪の匂いと、シャンプーの匂いがする。
    「あの……煉獄さん、体がすごく冷えてます。良かったら、家に来ませんか?俺の家、この近くなんです」
    「……ありがとう。この雪で足止めを食らって、途方に暮れていた。だが突然お邪魔して大丈夫だろうか?ご家族の方が……」
    「いまはもう、家を出て一人暮らしなので遠慮しないで下さい」
    そう言って炭治郎は先に歩き出す。煉獄は後について歩きながら秘書に電話をかけ、雪を理由に今日の予定を全てキャンセルした。
     大雪のため町はほぼ人気がなく、降り積もる雪が音も色も呑み込んで世界を静謐な白で満たしている。白い世界にたった二人きり、誰も邪魔する者はいない。炭治郎と煉獄は肩を寄せ合い、抑えきれない興奮を胸に部屋へと向かった。
     三分ほど歩いた所で、築浅の六階建てマンションに辿り着く。炭治郎の部屋は三階の角部屋だった。煉獄は着いてすぐに風呂へ案内され、ぐっしょりと濡れた服を預けて入浴する。シャンプーを使うと、先ほど鼻先を掠めた炭治郎の髪の香りが思い出された。
     不思議だ。もう二十年以上も炭治郎を探し続けてきたというのに、いま自分は彼の家で風呂に入っている。ほんの一時間前までは、彼の手がかりすら掴めていなかったというのに。
     悴んだ指先の感覚を湯の中で取り戻しながら、煉獄はこれが夢なら醒めないで欲しいと願った。

     風呂から出ると、途中で購入した下着と一緒にスウェットの上下が置かれていた。おそらく彼の部屋着なのだろう。丈がやや短めだったが、ダボっとした服なのでキツくはない。身支度を整えて寒い廊下からリビングへの扉を開けると、一気に暖かい空気と美味しそうな匂いに包まれる。六畳のリビングにはローテーブルが置かれ、温かいお茶と座布団が用意してあった。煉獄がそこへ座ると、炭治郎は麻婆豆腐や唐揚げ、茄子の旨煮、シュウマイなどの皿を次々とテーブルに並べる。旨そうな匂いが鼻腔を擽り、煉獄は自分が空腹だった事を思い出した。
    「ドライヤーは棚の所に……はい、それです。いま、チャーハンも出しますから、先に食べていて下さい」
     炭治郎は皿に大盛りのチャーハンをよそって煉獄の前に置き、入れ替わりに風呂場へ行く。借りたドライヤーで手早く髪を乾かした煉獄は、ふと窓の外へ目を遣った。雪はしんしんと降り続け、世界はすっぽりとマシュマロに覆われたようだ。ぶ厚い雪雲が垂れ込めた空は早くも暗くなり始めている。壁の時計に目を向けると、四時半を回っていた。夕飯には早い時間だが、お昼を抜いてしまったので腹がひどく空いている。本来ならば炭治郎が戻ってくるのを待って一緒に食べたいところだが、今回ばかりは許されたい。いそいそと手を合わせて「いただきます」と呟いた煉獄は、さっそく米粒が黄金色に輝くチャーハンを一口頬張った。

    「うまいっ!!」
     張り上げた声がビリビリと窓を揺らす。煉獄は慌てて口を押さえた。人様の家で無闇に大声を出してしまった。竈門少年が他の部屋の住民から苦情を言われてしまったら申し訳ない。煉獄は小さな声でもう一度「うまい」と呟やいて、ぱくぱくとご馳走を食べ始めた。
     そう言えば猪頭少年から「アイツの炊くメシはうめぇぞ」と聞いていたが、なるほど料理の腕は今も健在らしい。一度食べ出すと箸が止まらない。
     「うまい」「うまい」と控えめな声で繰り返しながら、煉獄は唐揚げや麻婆豆腐などのおかずを次々と胃袋へ収める。煉獄が夢中でチャーハンを平らげた頃、風呂場から炭治郎が戻ってきた。洗い髪をタオルで拭く炭治郎を見ていると、何だか妙に落ち着かない気分になる。煉獄の中では十五のあどけない少年のイメージが強すぎて、憂いのある色気を漂わせた今の炭治郎には戸惑いを隠せないのだ。
     炭治郎は早くも皿を空にした煉獄に驚きながら、「お代わりありますよ」と、中華鍋に残っていたチャーハンを再びよそってくれる。
    「あ、せっかくだからビールで乾杯しませんか?確か買い置きが……」
     炭治郎はそう言って缶ビール二本とグラスを持って、煉獄の隣に座る。二人は互いにビールを注ぎ合い、ささやかに再会を祝った。美味しい食事とアルコールも手伝って、二人は今の生活や前世の話などを饒舌に語り合った。

     今世の炭治郎も六人兄妹の長男として産まれ、現在は弟妹達と共に実家のパン屋を継いでいた。前世の記憶はあるものの、妹以外には一度も転生者と出会った事は無く、煉獄の姿をニュースで見つけてからはずっと雑誌やネット、テレビを通して追いかけていたという。
    「煉獄さんの姿をテレビで見るたびに、ああ、煉獄さんは今も、世のため人の為に戦ってるんだなーって。禰󠄀豆子といつも応援してました」
    「そんな大層な事はしていない。俺は自分に課せられた仕事を粛々とやっているだけだ。前世ほどの緊迫感もないしな」
    「前世は……あんな風に生き急ぐみたいな生き方は……もう、ね。今世では美味しいものを食べて、好きな事を沢山して下さいよ!」
    「いや、前世もあれでそこそこ、好きな事はしていたぞ。鬼の出ない昼間には芝居小屋や相撲を観に行ったし、神社の縁日に弟を連れていっては好きに買い食いしたものだ。任務先で名物を食うのも楽しみでな。覚えているだろうか、無限列車の任務の時も名物の駅弁を……」
     うまいうまいと頬張っていた煉獄を思い出したらしく、炭治郎は楽しそうな笑い声をたてる。
    「あの時善逸は煉獄さんの事を、『食いしん坊柱』って言ってましたよ」
     屈託なく笑う顔に、あの頃の様な悲壮感はない。だがどこか影を感じるのは、何故だろうか。煉獄はふと手を伸ばし、炭治郎の頭を撫でた。
    「君はあの時、とても良く頑張ったな。俺が居なくなった後も、鍛錬に励み、挫けず、強くなった」
    「……ふふ、煉獄さん、体が大きいから俺のトレーナーだと袖が短いですねえ」
     滲んだ涙を誤魔化したいのか、炭治郎は茶化す様にそう言って頭を撫でる煉獄の手を取る。そして煉獄の手をじっと見つめ、伏目がちに微笑んだ。
    「もう剣を握ってないのに、煉獄さんの手はやっぱり大きくて硬いですね」
    「ああ、真剣こそ握ってないが、修養の為に古武術を幼い頃から嗜んでいる。今でも悩みや迷いがある時は、道場で鍛錬したりな」
    「そうなんですか! あの時はこうしてお互いの事を話したり、触れ合ったりする時間もありませんでしたね。煉獄さんの事、俺は本当に何も知らなくて……後から千寿郎くんや眞寿郎さんにお願いして、色々教えてもらいました」
     煉獄の手を握ったまま、炭治郎はへへ、と子供っぽく照れ笑いする。だがその笑顔はやはり、どこか寂しげだ。置き去りにされた子供が無理に笑顔を作って自分を鼓舞するような、痛々しい笑顔。黄色い少年が「炭治郎は時々、誰も手の届かない遠い所に心が行っていた」と煉獄に話したのは、きっとこの事なのだろう。
    「竈門少年……」
     煉獄は思い切って腕を引き、隣に座っていた炭治郎の体を引き寄せた。悲しい前世の記憶から引き剥がす様に、己の腕の中へ。
    「煉獄さん……」
     頬を辿り、髪を梳き、今世にも残る額の痣にそっと唇を寄せる。煉獄は腰を抱き寄せ、己の膝に炭治郎が跨がるような格好で身体を密着させた。
    「あの、煉獄さん?俺、子供じゃないんで……」
    「知っている」
     至近距離で瞳を捉えれば、炭治郎の表情が緩々とほどけ、ほろりと涙が溢れる。
    「俺は生きている。確かめるといい」
     膝に乗り上げたしなやかな体を抱きしめる。炭治郎はほーっと深く息をついて、体の力を抜いた。互いの温もりがじんわりと伝わり、水が染み込む様に乾いていた心が潤っていく。
    「煉獄さん、今はとてもあたたかい……」
    「うむ。君の鼓動を感じる……少し、早いようだが」
    「なんか、ドキドキしてます。こうしてると安心するのに、すごくドキドキします」
    「俺もだ。不思議だな。君に会ったら話したい事が沢山あった筈なのに、今はただこうして君を感じているだけで心地いい」
     煉獄の言葉におずおずと炭治郎の重みが胸に伸し掛かる。幸せな重みを受け止めながら、煉獄は炭治郎の耳元に唇を押し当てた。ひやっ、と小さく上がる声にもぞりと胸の奥が甘く疼く。
    「嫌、だろうか」
    「嫌、じゃないです、ね」
     炭治郎の頬から耳、首筋までが見事に赤く染まっている。煉獄はそっと首筋を唇で辿り、耳朶に優しく歯を立てた。コリコリと歯先で甘噛みすると、炭治郎が息を飲んで肩をピクピクと震わせる。
    「そんなに息を詰めたら、苦しくないか?」
    「はぁ……」
     赤い顔で頷き、横目で見上げる炭治郎の眼差しから匂い立つような色気を感じて、煉獄の体温が一気に上がる。欲しい。彼の頭のてっぺんからつま先まで、全てを自分のものにしたい。煉獄は爆発しそうな己を抑えて炭治郎を掻き抱いた。
     これはもう、親しい友人の距離ではない。いや、再会した時からそうだった。今まで一度も再会した相手に、こんな気持ちを抱いた事は無かった。
    「すまない、君に逢えたのが嬉しすぎて、俺は頭がおかしくなってしまったのかもしれない」
    「な……ど、どうしてですか?」
    「君に対して、とても興奮している。こんな筈じゃ無かったんだが……すまない。君にこんな感情を抱くなんて、どうかしてる。今世では初対面なのに……いきなり抱きしめたり……愛撫したり……これじゃセクハラだな!」
    「セクハラじゃありません!」
     炭治郎はそう言って身体を起こし、煉獄の鼻先に顔を寄せる。その瞳は涙に溶けそうなほど潤んで、ツンと上向いた鼻は少し赤くなっている。
    「俺は……ずっと、煉獄さんの事を考えてました。前世でも、今世でも。ずっとずっと貴方を想って、憧れて、貴方の存在に支えられて……今も貴方に触れてもらえて、震えるほど嬉しいんです」
    「竈門少年。そんな事を言われたら、都合よく解釈してしまう」
    「構いません」
    「なあ、竈門少年。君は俺を、どうしたいんだ?」
     その問いに炭治郎はすぐに答えず、無言で微笑んだ。そして煉獄の腕の中でそっと伸び上がり、微かに触れるようなキスをして静かに答える。

    「教えて下さい。貴方の事をぜんぶ。そして煉獄さんにも、俺の事を知って欲しいです。貴方が望むなら、俺の全てをあげますから」
     炭治郎は大きな丸い瞳に熱を宿して、じっと想い人を見上げた。煉獄は嬉しさを堪えきれぬ様に深く息を吸い込み、大きな手で炭治郎の髪をひと撫でしてからコツンと額に額を合わせる。
    「承知した! ……竈門炭治郎、君の全てをこの煉獄杏寿郎が貰い受ける。代わりに俺の全てを、君にあげよう」
     煉獄は炭治郎の両頬に優しく手を添えて、額のアザに口付け、涙に濡れる瞳、頬、鼻先と順番に唇を押し当てた。煉獄の熱がじんわりと広がり、炭治郎の体をゆっくりと溶かしていく。煉獄は鼻先が触れそうな距離でうっとりと恋しい相手を眺め、熱い吐息と共に炭治郎に告げた。
    「どうやら俺はずっと、君に恋をしていたらしい。恥ずかしながら今、気がついた」
    「俺もです……煉……んんぅ!」
     名前を呼ばれる前に炭治郎の唇を塞ぎ、貪るように口付ける。やっと、君を見つけた。歓喜と陶酔の嵐に、煉獄は夢中で何度も噛み付くようなキスを繰り返す。白く音の無い世界で、煉獄はやっと辿り着いた温もりに無我夢中で溺れた。

     それから二人が同棲を始めるまで、さして時間は掛からなかった。内閣府大臣政務官として分単位のスケジュールをこなす煉獄と町のパン屋の炭治郎では、デートの時間を合わせる事すら難しい。だがようやく運命の相手に巡り会えた今、もう離れる事など考えられなかった。再会して一ヶ月足らずで二人は互いの親に挨拶に行き、同棲を始めた。住まいは炭治郎が仕事場にバイクで通える距離の、都内のマンションである。芸能人も御用達のセキュリティーがしっかりしたマンションで、二人は慎ましくも幸せな暮らしを始めた。

     煉獄の仕事である政務官は、基本的に各省の大臣・副大臣のサポート業務である。政策の草案作成時に参照する経済指標や統計資料の取り纏め、各委員会や業界団体との意見の擦り合わせなど、大臣の手足となって政策作成に関するあらゆる業務をサポートする。他にも行政評価を行う第三者機関との会合、担当省庁との打ち合わせ、シンポジウムや各種イベントへの出席など業務は多岐に渡り、スケジュールは常に過密で地方への出張も多い。決裁すべき書類や報告書も山積みで、煉獄は毎晩の様に帰宅が遅くなっていた。

     そんな煉獄の体を心配して、炭治郎はとりわけ食事に気を配り、帰宅した煉獄がホッと一息つけるような美味しい夜食をいつも用意していた。寒い時期には芋粥や鯛めしの雑炊、暑い時期には冷やしぜんざいや冷汁など、煉獄の好みと体調を考え毎晩趣向を凝らした夜食を作り置く。パン屋の朝は早いので深夜に帰宅する煉獄を迎える事は出来ないが、せめて少しでも煉獄の仕事を労いたいという心遣いからである。
     煉獄は一日の終わりに美味い夜食を味わい、風呂に入って炭治郎の眠るベッドに滑り込む。あと二、三時間もすれば仕事で起きねばならない恋人をそっと背後から抱き締めると、心地よい温もりが疲れた体を癒してくれた。幸せな温もりにぴったりと寄り添い、眠気が訪れるまでの至福の時間。この時間が有るからこそ、明日も頑張ろうと思えるのだ。

    「思うに俺は、君に甘えすぎだな」
    「そうですか?」
    「君がいなければ、間違いなく俺は過労死する」
    「ちょっと煉獄さん! 縁起でもないこと言わないで下さいよ!」
     休日に二人揃って掃除をしながら、煉獄はしみじみと恋人の姿を見つめた。こうして一緒に過ごす、何気ない時間が堪らなく愛しい。
    「俺はもっと君を大切にしなくちゃな」
    「十分、大事にしてくれてますよ!」
    「だが最近、デートしていないだろう」
    「良いんです」
     炭治郎は首を振って、炭火の様な暖かな笑みで嬉しそうに言った。
    「戦う煉獄さんの側で、貴方をサポートするのが俺の夢だったんです。あなたの嗣子にはなれなかったので」
    「竈門少年……」
    「だから俺、今が本当に嬉しいんです!」

     長い長い時間、己の半身を求めて寂しく過ごした日々。それを思い出すたび、二人で過ごす時間が尊く大切に思えた。もう二度と、離したくはない。
     煉獄は初めから二人の関係を公表して、ゆくゆくは入籍したいと考えていた。日本ではまだ同性婚が認められていない故に養子縁組をする訳だが、炭治郎はその話になるといつも話をはぐらかした。
     父の後ろ盾があるとはいえ、まだまだ若手政治家である煉獄の地位は盤石ではない。つまらないスキャンダルで足を掬われるくらいなら、一生日陰の身で構わないと炭治郎は思っているらしい。煉獄は二人の関係に恥ずべき所は無いのだから、と何度も説得したが、せめて煉獄がもうすこし政治家として確固たる地位を築くまでは関係を秘匿したいと炭治郎は譲らなかった。


     そして瞬く間に三年の月日が流れ、遂に写真週刊誌に二人のプライベート写真が掲載されてしまったのである。

    ******

    「さっきも言いましたけど、俺は本当に大丈夫です! 少し寂しいですけど、全然、平気ですから」
    「……」
    「それより煉獄さんが、こんなスキャンダルで潰れるなんて勿体ないじゃないですか。煉獄さんはすごい人です! いつか総理大臣にだってなれる人です!!」
    「……」
    「だから、もう……この手を離して下さい」
     炭治郎の言葉に、煉獄の腕の力が少しだけ緩んだ。炭治郎は想いを断ち切るように煉獄の腕を無理やり解き、一歩下がって再び深々と頭を下げた。
    「今までありがとうございました。この二年間、本当に幸せでした。前世では知らなかった貴方の色んな部分を知る事が出来ましたし……戦っていない貴方の、普段の顔を知る事もできました。本当に、ありがとうございました!!」
    「……」
     別れの挨拶をきちんと言えた事にホッとして、炭治郎はまた泣きそうになる。しかし泣いて仕舞えば、煉獄の決断を鈍らせるだろう。炭治郎は迫り上がる悲しみをぐっと堪えて歯を食いしばった。煉獄は黙り込んだまま、じっと石のように動かない。恐らく頭では理解していても、心がついていかないのだろう。それは炭治郎も同じで、だからこそ決心が揺らがないように煉獄の顔を見ないで頭をあげ、背を向けた。
    「荷物は煉獄さんのいない時間に取りに来ます。実はもう、整理はしてあるんで。取り敢えず今夜からは俺、ホテルに泊まりますね」
    「……」
     煉獄は押し黙ったまま、微動だにしなかった。せめて最後に一言、互いにさよならを言って綺麗に別れたいと思っていたが、それは虫の良すぎる話だろう。
     これ以上この場にいても仕方ないと判断して、炭治郎はテーブルに置いておいたスマホに手を伸ばす。週刊誌の記事が出て以来、何処で調べたのか変な電話やメッセージが入ってくる様になった為、電源は落としてある。炭治郎は沈黙したままのスマートフォンをポケットに入れて、リビングのドアに手をかけた。

     その時、ポツリと煉獄が言葉を発した。

    「……俺は、炎柱だった」
    「え……?」
     振り返ると、何処を見ているのか分からぬ目をした煉獄が、思い詰めた表情で立ち尽くしていた。彼は淡々とした声で語り、その瞳は炭治郎より遥か彼方に向けられている。
    「天から賜りし力で鬼を狩り、弱き人を助ける。闇を薙ぎ払い、風雨を突いて走り、無辜の人々の平安なる夜を守るのが我が使命であると信じていたからだ。その責務を全うする事が俺の幸福であり、人生だった。だが」
     煉獄の視線がスイ、と流れて炭治郎を捉える。蛇に睨まれた蛙の様に、炭治郎の体は動かなくなった。ゆらりと煉獄が音もなく歩み寄り、炭治郎の手を掴む。
    「今世に生を享け、俺はもはや炎柱ではない。果たすべき責務も、斃すべき鬼もいない」
    「でも、煉獄さんは代々政治家の家系で……」
    「それは選択肢の一つであって、使命ではない。今世の俺は決められた道ではなく、無数の選択肢から己の道を選び取る。世の為、人の為に政治の道を歩むとしても、道は一つとは限らない。いくら分岐していても、或いはどれほど荊の道でも、俺は俺の信念に基づいて道を選びたい」
     煉獄は片膝をつき、握っていた炭治郎の手に熱く口付けてそっと離した。そして懐から紫紺の小箱を取り出し、中身を炭治郎に向けて開く。
    「れ、煉獄さん……?それ……」
     中にはきらりと輝く、ダイヤモンドのついた指輪が鎮座していた。男性向けのデザインらしく、太目のプラチナリングにダイヤモンドが埋め込まれている。紛う方なき婚約指輪であった。
    「竈門少年。どうか俺と結婚して欲しい。無論、日本ではまだ同性婚が認められていない。正式な意味での結婚はまだ叶わないだろう。だが俺は諦めない。簡単ではないが、一緒に日本を変えていけばいいと思う」
    「……でも……俺」
    「実はもう記者会見を開いてきた」
    「!!」
     炭治郎は目を丸くして固まる。そう言えば煉獄との事が写真週刊誌に撮られて以来、怖くてテレビも雑誌もインターネットも見ていなかった。煉獄がいたずらっ子のような目でリモコンを操作すると、テレビのどのチャンネルでも「煉獄杏寿郎、ついにカミングアウト!」「熱愛を告白!結婚まで秒読みか!?」と大袈裟な煽り文字が踊っている。国会内のロビーらしき所で、記者に囲まれてフラッシュを浴びる男は、間違いなく目の前の煉獄杏寿郎だ。沢山のICレコーダーやマイクに囲まれて、煉獄は迷いのない瞳で前を向いている。

    『お相手の方は?』
    『一般人なので詳しくは言えませんが、もう三年ほど一緒に暮らしております。互いの家族にも挨拶済で、結婚を前提にお付き合いさせて頂いております』
    『所属政党は同性同士の結婚を認めてませんが』
    『はい。ですが私は多様性ある社会を目指して、同性婚の法制化を求めていく所存です。その事について党の指針と嚙み合わないという事でしたら、除名頂いて構わないと本部には伝えて参りました』
    『その場合、議員辞職も厭わないという事ですか』
    『はい。同性と結婚する私を認められないという方が多いのであれば、議員を辞めて裸一貫から出直す所存です』
    『そこまで深く相手の方を思われている、という事でしょうか』
     インタビュアーの熱が籠った問いかけに、煉獄の金に縁どられた赤い瞳がきらりと閃く。そして雄々しい太眉がハの字に緩み、愛おしい者を思う優しい表情に変わった。
    『唯一無二の伴侶であるならば、全てを投げ打つ覚悟で愛すべしと云う事です。私の父をご覧いただければ、煉獄の男という物が分かりますでしょう』
     その言葉に、取り囲む記者たちから溜息が漏れる。テレビ画面を呆然と見つめていた炭治郎は、思わず口を開いた。

    「嘘だあ……!」
     怖くて電源を切っていたスマートフォンを立ち上げると、鬼の様にアプリの通知とメールがなだれ込んできた。中を開けば数えきれない程の祝福のメッセージがどっと溢れ出した。
    「うそだあ……」
     ニュースサイトからも「煉獄杏寿郎婚約!」「お相手は一般人の二十代男性!」と速報が矢継ぎ早に通知され、炭治郎はうそだあ、と繰り返しながらその場にへたり込む。
    「もちろん、簡単な道じゃない。まだまだ差別は残っているし、悪意のあるコメントやマスコミが君を傷つけるだろう。死にたくなるほど嫌な思いをするかもしれない。だが俺は力の限り君を愛し、守ろうと思う」
    「俺も!」
     弾かれた様に顔をあげて、炭治郎は思わず叫んでいた。
    「俺も貴方を守りたいです! 今度こそ俺は、貴方と一緒に戦います!!」
    「ならば受け取ってくれるな?」
     煉獄が改めて跪き、指輪を差し出して炭治郎を見つめた。その瞳は情熱と強い意志に燃え、揺るぎない愛情に満ち満ちている。炭治郎は震える膝に力を入れて立ち上がり、口元を引き締めてこくりと頷いた。
    「ありがとう竈門少年……いや、炭治郎。共に歩み、戦い、最後の一瞬まで君の側に居させて欲しい」
    「……はい! 喜んで!!」
     
     涙は拭っても拭っても溢れ出し、煉獄の顔を良く見たいのに霞んだ視界ではちっとも見る事が出来ない。炭治郎は何度もゴシゴシと目を擦ったが、涙が止む気配は無かった。煉獄は震える炭治郎の左手を取り、そっと婚約指輪を薬指に嵌める。そして涙に濡れた頬を大切に両手で挟み、優しいキスをした。
    「君が一等、大切なんだ……炭治郎。君が居ない人生など考えられない。もう君を離すことは出来ない」
     煉獄の瞳が炎を宿した様に美しく揺れている。いつも炭治郎の心を熱く燃え立たせ、迷いを許さない苛烈な眼差し。彼の炎は今も昔も、もうずっと炭治郎の魂の一部になっているのだ。
    「おれ、側に居ます……も、もう、ずっと、居ます、居させて下さい! 絶対に離れたり、しません……!!」
     そう言って炭治郎は煉獄にしがみつき、わあわあと声をあげて泣いた。本当は離れるのが恐ろしかった。煉獄の深い愛情をたっぷりとこの身に受けてきた今、彼から離れるのは酸素を奪われるにも等しい。それでも彼の為に離れなければならないと、断腸の思いで別れを告げたのだ。
    「愛してる……炭治郎」
     吸い寄せられる様に重なった唇に、ピリッと痺れる様な快感が走る。恥ずかしそうにおずおずと煉獄を迎える炭治郎の舌を、絡め取り甘く責め立てて興奮を煽る。煉獄の情熱的な口付けに頭の奥が真っ白になり、炭治郎は助けを求める様に煉獄の胸にしがみ付いた。
    「ん……は、っっ、ぅん……れ……ご、くさ……」
     抑え切れない興奮が背筋を駆け上がり、煉獄の息も荒くなる。唇を離した煉獄は余裕のない顔で炭治郎を覗き込み、熱い吐息と共にかき口説いた。
    「っ、炭治郎……今日はもう、このまま君を抱きたい。良いだろうか」
    「だ、め……です、夕飯……を……」
     弱々しく逃げようとする炭治郎の腰を引き寄せ、滑らかな首筋にむしゃぶり付く。耳殻に軽く歯を立て、頸から鎖骨を舌で辿れば、炭治郎が押し寄せる快感の波に体を震わせた。
    「煉獄さん……も、や……めっ……」
    「やめないぞ。すっぱり別れようなんてつれない事を言う恋人には、少しお仕置きが必要だろう」
     笑顔で見下ろす煉獄の目が、全く笑っていない。ジタバタともがいて逃げようとする炭治郎を、煉獄は軽々と抱き上げた。
    「君には常々、俺の思いの丈を伝えていたつもりだが……どうやら足りなかったようだな。どれ、嫌というほどしっかりと、俺の愛を教えてあげよう」
    「ひぇっ……!」
     もう、十分に分かったので結構です……という言葉を言う前に、炭治郎は蜜柑のようにスルスルと着ていた服を剥かれてバスルームへと連れ込まれる。
    「夕飯は、ネットで宅配にしよう」
     煉獄は嬉々としてそう言い、反論しようとする恋人の口唇をキスで塞いだ。

    〈了〉
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    Replies from the creator

    ロミオ

    DONE※パスワード外しました!教えて下さった方、ありがとうございます!!※

    B'zさんの名曲「Crazy Rendezvous」を煉炭で書きたい!!と前々から思っていたので、今回のWEBイベント合わせで書き下ろしました!
    炭治郎への片想いを拗らせて、真夜中のドライブに強引に連れ出した煉獄先生のお話です。
    Crazy Rendezvous「何考えてるんですか! わあっ、ちょっと!!」
    「少し揺れるぞ!」
     驚きに口をあんぐり開けている竈門炭治郎を横目に、煉獄杏寿郎は楽しそうな笑みを浮かべてハンドルを切る。
    「ちょ、ちょ、ちょ、れ、煉獄先生!?」
    「喋っていると、舌を噛む!」
    「わーーーっ!」
     土曜日の夜十時過ぎ。首都圏の県道とはいえ、この時間なら車の一台もすれ違わない田舎道だ。少し乱暴にハンドルを切り、アクセルを踏み込んでスピードを上げる。法定速度を順守して丁寧な運転を心掛ける「煉獄先生」とは真逆の、スリリングなハンドル捌きで夜を駆け抜ける。
    「先生! 一体どうしちゃったんですか!?」
     パン屋の仕事を終えて疲れの滲む炭治郎の片頬には、拭い忘れた小麦粉がついている。明日は店が休みだけれども、新商品を考える為にバックヤードに残っていた彼を、煉獄は強引に車へ引き摺り込んだのだ。そのため作業場で被るネットは辛うじて外したものの、右胸に「かまどパン」のロゴを刺繍した作業着は着たままだ。出掛ける心づもりなどまるでなかった為、温厚な彼にしては珍しく眉間に皺を寄せている。
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    ロミオ

    DONE本当は第十回rntn ワンドロワンライお題: 『香水』の為に書いていたお話でしたが、時間的に間に合わず放置していた物を、今日のwebイベントの為に手直しして完成させました!

    大正謎時間 継子IFで煉獄さんも炭治郎も、大きな怪我なくピンピンしていて、しかも両思いです!

    そんな二人のちょっと色っぽい空気の話。こんなタイトルですが、雰囲気だけエッチなお話。キスなので一応、全年齢でございます。
    閨の香り「おはようございます、煉獄さん」
     炭治郎は障子の前に座し、師匠である煉獄杏寿郎に声を掛けた。鬼の噂を聞きつけて東京を離れ一週間、常陸宍戸まで探索に出掛けた煉獄とその継子である竈門炭治郎は、無事に任務を果たして明け方に屋敷へ帰り着いた。夜明け前の薄暮の中、師匠と共に湯で足を洗って下女の作り置いた粥を啜り、仮眠をとった炭治郎は、九時過ぎに起きだして風呂と昼餉の支度を始める。勿論、炎柱邸には家事を担う下男下女が居るのだが、炭治郎たっての希望で風呂の支度と炊事は主に彼が担当しているのだ。
     長い任務の後にはゆっくり湯に浸かり、美味い飯をたらふく食べて欲しい。それは炭治郎の真心であり、こだわりである。炎柱の稽古は噂に違わず厳しく、慣れないうちは稽古終わりに立ち上がれぬほど疲労困憊したものだが、それでも風呂と食事だけは弟子の務めと欠かした事はない。支度を済ませてきっかり十時半、炭治郎は障子越しに煉獄へ呼びかけて、いつもの様に返事を待った。
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