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    MELT_BLUEx

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    MELT_BLUEx

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     なんだか放っておけなかった。他人に優しくする自分に酔ってるんだろと喚き散らされては返す言葉も無いが、まぁ、理由なんてなんだっていいじゃないか。
     いつも背中を丸めて、蒼白い顔をしていて―――その痩躯は、不健康を絵に描いた様な。気だるげで、眠たそうにまぶたを伏していて、けれど時おり獲物を見つけたみたいにキラリと瞳を光らせた。壱は、正しく猫みたいな男だ。
     深夜の高速をあてどもなく走るのが好きだった。高校を出て、なけなしの金で自分の車を持ってからずっと。
     昔はラジオを聴くことが多かったものだが、今は控えめな音量で、メロウな曲が流れている。これは架羅の趣味であり、また壱の趣味でもあった。二人の音楽の趣味や感性は、とにかくよく似ていた。
     助手席に、たまに壱を乗せる。めんどうくさそうな素振りを見せるのはもはやお決まりのポーズで、よほど体調が悪いとか、都合がつかないとかじゃなければ、大人しくついてきてくれた。壱は大方黙っていて、時々思い出したように、買ってやったコーヒー(ミルクたっぷりの甘いやつ。)を啜る。
    「つまらなくないか」
    「お前が誘ったんじゃん」
    「それはそうだけど」
    「べつにつまらなくはない」
     前に、そんなやり取りをしたことを思い出す。それからもう何度目にもなる、その言葉を疑ったわけじゃないが、本当につまらなくはないらしい。
     不器用なだけで、壱はその実、誰より優しい人間だし、それに気づいてからというもの、その不器用さが愛しいなと思うようになった。架羅の夢を笑わずに聞いてくれるのは、いつだって壱だけだ。
     気分転換に外の空気でも吸おうと、適当に立ち寄ったサービスエリアで降りる。めんどくさい……と零しながら、壱も車から降りてきた。
     タバコに火をつける。壱は吸わないから、手持ち無沙汰なようだった。空いた方の手で、ひまにしているその手を握ってみると、存外にも振りほどかれることは無かった。
     もうすっかり夏で、握った手のひらは少しだけ湿っていた。今年の夏は、どこへ行こうか。
     気をよくして、指を絡めると、壱が窺うようにこちらをちらりと見た。暑さの中で、その瞳だけがいつでも冷たさを帯びていて、好きだなと思った。
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