「モモの好きな表情ってあるじゃない」
「どういうこと?」
「例えば、こんなのとか」
ユキがオレを見つめて、ふんわり微笑む。ふだんのクールな眼差しじゃなくって、長い睫に縁取られた瞳が、やわらかく弧を描いていた。やさしくってかっこいい表情。
「うぅ~ユキイケメン~…」
「あとこれも好きだよね」
パッと表情が切り替わる。今度はシャープに目が細められて眉と目蓋の距離が縮まる。見惚れていると口の端だけで笑われた。
「ユキぃ~かっこいいよぉ~…」
「ありがと」
オレがふにゃふにゃでめろめろになってると、長くてきれいな指が顎をくすぐってくれる。猫にするみたいに。さわさわされんの、きもちいぃ……。
「僕はおまえのそういう顔に弱いけどね」
「えっ、なに……」
そのまま顎を持ち上げられて、最強の顔面が近づいてきた。やわらかいものがオレの口をふさいで離れる。
「他のやつには見せるな」
「えっ、えぇ~ なになに、なにっスパダリすぎでは オレ得でしかない! ずるいよ! ドキドキしちゃう! ってか、嬉しいんだけどオレで遊んでないでスタジオに戻ってね☆」
「モモ……キスだけじゃ足りないんだけど」
「オレもだよユキぃ……モモちゃん、ユキの作る曲、聞くのたのしみだよぉ……はい、スタジオに戻ってくださーい」
「…………はぁ」
「流されませーん」
「モモのケチ……」
あ、素の顔に戻った。キメキメダーリンも最高に好きだしかっこいいんだけど、ナチュラルな表情も気だるくてセクシーで大好き。作曲してるときの真剣な表情はもっと好きだよ。力の抜けた背中を押して、自宅スタジオへ連行する。締め切りはまあまあヤバい。オレだってこれ以上ちょっかい出されたら落ちちゃう。でもここは心を鬼にして仕事させなきゃ。
「さいっこうの曲が出来たら、続きしてね。オレ、それまでいい子で待ってるから」
「今したい……」
「待ってるね♡」
「そういうの、逆効果だからな……はぁ」
恨み節を口にしながらも、ちゃんとスタジオへ消えていくユキ。辛いときに側にいることしか出来ないオレだけど、終わったらいっぱい労っちゃうからね!
(オレに才能があれば違ったのかな)
ユキが作った曲が聞けて、ユキに触れてもらえて、オレ得すぎるじゃん。もっとこの人を助けられたらいいのに。