ほのぼの烏詠「こんな所に居られるか! 僕は逃げるから!」
「おい、詠、外は……って、逃げ足だけは早ぇな」
屯所で休んでいたはずだったのに、あの鳥妖怪に攫われたのか知らない小屋に連れ込まれていた。僕は夜に寝ることすらもできないってこと?
眠りから覚めて視界に入るのがこの世のものとは思えない禍々しいくらいに美しい妖怪の顔なんて、びっくりして飛び出しちゃうだろ。
「あんな、あんな……なんであんな顔してんだよお……」
くそっ、顔だけはいいな。あの姿かたちでどれだけの人を化かしてきたんだか! か、顔だけじゃなくて声も体もいいけど……力も強いし……使役出来たらこき使ってやる!
森の匂いがする。ここどこだろう。辺りは視界がはっきりせず、ざくざくと踏みしめる草の匂いは……道ではなく、森の中。飛び出した小屋はわらの寝床だけ置いてあって、あのままだと組み敷かれて酷い目に遭わされる所だった。あの綺麗な顔のついた大妖怪は僕のことを一体何だと思っているんだ。さっさと屯所に戻ろう……。
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