コート別の練習を終える頃には、すっかり陽も沈みはじめていた。
このまま早めに夕食を済ませて夜の自主トレーニングに励もうと、コートを後にするとそのままレストランの方へと向かった。
少し早い時間ではあったので案の定人もまばらで、テーブルを見渡したがよく見知った姿もなく。端の方の空いたテーブルにトレイを置くと、そのまま腰掛けて夕食を始めた。
耳に入る喧騒が少しずつ大きくなり、人が増え始めたなとぼんやり思考を巡らせながら黙々と食べ進めていく。
「徳川さん、ここいいっスか?」
不意に正面から投げ掛けられた澄んだ声色に顔を上げると、ほんの少しだけ高い所にある大きな瞳がこちらを見下ろしていた。
近頃何かにつけて気に掛けている中学一年生の後輩が、態々同席しようと声を掛けてくれたらしい。
声を掛けられる寸前に口にしたものを何時も通りにゆっくりと咀嚼して飲み込んでから、口を開く。
「あぁ、構わないよ」
「どもっス」
正面の席に彼が腰掛けたのを確認して、再び手元へ視線を落とした。
少し箸のペースを落としながら、今日の昼間はどんな練習をしていたのかなど他愛もない話に花を咲かせる。
「あ!コシマエー!!」
暫し穏やかな時間を過ごしていると、突如響いた大声とともに賑やかな足音がこちらへと近付いてくる。
「ワイもここ座ってええ!?」
俺達の間の空席に立ち、目の前の彼ともまた違う輝きを宿した大きな瞳がこちらを真っ直ぐに見つめてくる。
それに一つ快諾の言葉を返せば、おおきにと元気な声で返事をしてその椅子に腰掛けた。
そして夕飯を食べながらも止まらない勢いで繰り広げられる二人の会話を耳に挟みながら、自分も食事を再開する。
そんな目まぐるしく話題が変化しながらも尽きない会話に、ふと思考を巡らせる。
普通の中学生から見れば高校生など遥か遠い存在に思えるだろうが、どうやら彼らにとっては違ったらしい。
この合宿に合流して早々に、俺達に勝負を仕掛けてきた彼らの挑戦的な瞳はまるで物怖じせず、ただ純粋に強者と戦える喜びに満ちていた。
言葉を変えれば生意気とも言えるこの四つも年下の彼らの存在が、知れずのうちにいい刺激になっているのだろう。
そう考えると去年の自分自身も先輩方からしたら同じような存在だったのかもしれない。そして数年前の、それこそ彼らと同じ位の年の頃でも果たして同じようなものだったかと。