「例えばさ……俺が、アンタの命を狙いに来た暗殺者とかだったら、どうするわけ?」
カーテンの隙間から洩れる夜の明かりに微かに照らされた、組み敷かれた裸の身体。
縺れあった二人を乗せたシングルベッドをささやかなステージに見せかける、それはまるで寂れたスポットライトのようだ。
そんなステージに添える音楽は、軋むベッドの音と夜更け前から降り始めた雨が窓を叩く音、そしてそんな夜にどうしてか口走りたくなる他愛もない戯言。
屋外競技を生業としている割にいやに白い目の前の首元に、躊躇うことなく己の両手を掛けた。
「何もかも正反対なのに、一緒にいるのも可笑しな話だろ」
浮き上がる喉仏を親指の腹で撫で、徐に力を掛ければ薄く開いた唇から微かに吐息が漏れる。
しかしその潤んだ視線は微塵も揺らぐことなく、こちらを痛い程に真直ぐと貫いていた。
こちらを見透かそうとするように見上げる色に思わず目を逸らしたくなるが、しかしそれすらも許さない有無を言わせぬ威圧感がある。
「そうすることでお前が救われるなら、それでいい」
首に掛けたその両手を、別の両手が優しく包み込む。
情事の後でほんの少し汗ばんだ掌から伝わる熱が、まるでそこから全身に染み渡って内側からじわじわと侵されていくような。
そしてほんの少し目を細めて、口元を微かに綻ばせる。
一体このステージで踊らされているのはどちらの方なのか。その瞳に映りこんでいる俺の顔が、一体どんな表情を浮かべているのかなど到底知りたくもない。
再び開きかけた唇から発せられるだろう言葉の続きを聞きたくなくて、その吐息ごと飲み込んでやろうと噛み付くようなキスで蓋をした。